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第4回 大腸癌肝転移に対する治療戦略

3. 大腸癌肝転移に対する治療

3.1 切除可能大腸癌肝転移
3.1.1 手術療法
表4 肝切除の適応基準
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表5 Results of Hepatic Resection for Metastatic Colorectal Cancer
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 ・手術の適応
 根治的肝転移切除術の適応となる肝転移の個数は、1980年代には3個以下と考えられていたが、1990年代以降4個以上の切除例でも長期生存例が報告され始めた。現在では、肝転移の大きさや個数のみで切除の適応を判断していない。大腸癌治療ガイドライン医師用2010年版には、(1) 耐術可能、(2) 原発巣が制御されているか制御可能、(3) 肝転移巣を遺残なく切除可能、(4) 肝外転移がないか制御可能、(5) 十分な残肝機能、と記載されており6)、米国肝胆膵学会 / 腫瘍外科学会 / 消化器外科学会 (AHPBA / SSO / SSAT) のコンセンサス会議による肝切除の適応基準もほぼ同じである18,19) (表4)。残肝容積は、30%以上であれば安全に肝切除が行えると考えられている20)
 切除可能肝転移に対する根治切除後の5年OSは20〜50%6)、10年OSは20〜26%21)と報告されており、「他の治療法との比較研究が許容し難いほど良好な成績」6) が報告されている (表5)。ただし、肝転移切除後の再発率は50〜70%と高く、うち残肝再発が全体の40%以上を占める。肝切除後再発に対する再肝切除は、メタアナリシスにて初回肝切除とほぼ同様の長期生存率が示され、合併症の頻度、手術関連死亡も同程度であることから考慮すべき治療法と考える22)

 ・術式
 従来、欧米では葉切除あるいは区域切除が標準術式であったが、我が国では系統的切除と部分切除で予後に差がないことから、部分切除あるいは小範囲系統切除が多く行われている。ほかに残肝容積確保のための工夫として、門脈塞栓術や多段階切除などの術式が取り入れられている。特に、門脈塞栓術は残肝容量40%未満が予想される場合に施行され、残肝容量を10%ほど増加させることで肝転移切除の適応を広げることができ23)、肝膿瘍などの重篤な合併症の発生割合は2.2%と比較的安全に施行可能である24)。また、術前化学療法と併用した場合でも残肝容量増加の程度や術後合併症に差を認めなかったと報告され、化学療法施行後に肝切除を予定する際にも用いられる25)
 切除断端については1986年にEkbergらが長期生存のためには切除断端10mm以上が必要であると報告し26) 切除断端1cm以上が標準とされたが、その後Fongらは断端1mm〜10mmと、10mm超では5年OSに差がなかったと報告した27)。本邦からの報告でも断端距離によってOSに違いはみられず28)、現在では腫瘍露出が無ければ (R0切除) 断端距離は考慮しなくてもよいと考えられている。
 さらに、de Hassらは肝転移切除症例を対象にR1切除例 (n=202) とR0切除例 (n=234) を比較したところ、5年DFS (disease-free survival) はR1切除例でやや劣る傾向であったが (20% vs. 29%, p=0.12)、5年OSには有意差がなかった (57% vs. 61%, p=0.27) と報告し29)、再発リスクは高いものの、効果の高い周術期化学療法が行われた場合はR1切除でも許容されるのではないかと提案している。

 ・同時性肝転移の切除時期
 同時性肝転移は、本邦では以前より一期的に原発巣と転移巣を切除することが多かったが、海外を中心に原発巣切除後3〜4ヵ月のwaiting timeをおいてから肝切除を行ったほうが術後早期の残肝再発を抑えられるという考えもあり30,31)、明確な結論は得られていない。

表6 大腸癌肝転移の病期分類
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図1 血行性転移の治療方針
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表7 Grade別肝転移5年生存の比較
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表8 既報における肝転移症例の予後因子
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 ・予後因子
 肝転移切除例の再発・死亡のリスク因子としては、(1) 肝転移因子―肝転移個数、腫瘍径、組織型 (低分化・粘液)、脈管浸潤陽性、肝門部リンパ節転移陽性、(2) 原発巣因子―所属リンパ節転移陽性・個数、組織型 (低分化・粘液)、(3) 肝転移切除後の因子―断端陽性、切除断端距離、(4) 背景因子−高齢、術前遠隔転移陽性、同時性、無病期間<1年、術前CEA高値などが報告されている32-37)。年齢については、術後合併症のリスク因子となるという報告が多いが、70歳以上の患者での肝切除後の3年OSは70歳未満とほぼ同等との報告もある38)
 本邦では、肝転移の病期分類としてGrade分類が広く用いられている。旧厚生省がん研究「大腸癌の肝・肺転移例に対する治療法の確立に関する研究」において、全国18施設から集積された肝転移763症例 (うち切除例478例、同時性277例、異時性201例) の解析結果に基づき、予後因子のなかから肝転移個数と最大腫瘍径を選択し、肝転移巣4個以下かつ最大径が5cm以下をH1、5個以上かつ最大径が5cmを超えるものをH3、それ以外をH2と分類した (表6)。H1、 H2、H3のOS中央値はそれぞれ38.1ヵ月、26.0ヵ月、12.0ヵ月であった39)。Grade分類は、このH分類に原発巣のリンパ節転移の程度 (N0-N3) と遠隔転移の有無 (M1) を組み合わせた分類 (A-C) であり、大腸癌取扱い規約第7版に掲載されている (図1、表7)

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