GI-pedia|大腸癌のトピックに関するエビデンスや情報をまとめ、時系列などに整理して紹介します。

第5回 癌分子標的薬の歴史

2. 大腸癌に対する癌分子標的薬

2.1 VEGF, VEGFR
表3 VEGF、VEGFRを標的とした分子標的薬
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 癌の特徴の1つに「inducing angiogenesis」がある。大腸癌の血管新生には、癌細胞での血管内皮細胞増殖因子 (vascular endothelial growth factor: VEGF) 産生と血管内皮細胞のVEGFRによるオートクライン (自己分泌) が大きく関与している。また、VEGFやVEGFR阻害剤は、血管新生の抑制のみならず、腫瘍血管の正常化作用により細胞傷害性抗癌剤の組織内移行を上昇させることで併用効果を発揮すると考えられている。

2.1.1 Bevacizumab (rhuMAb VEGF)

 BevacizumabはVEGFに特異的に結合する遺伝子組換え型のキメラ型ヒト化IgG1モノクローナル抗体 (分子量約149,000) である。難治性固形癌を対象にBevacizumabをday 0、28、35、42に投与し安全性と薬物動態を検討する第I相試験が行われた結果、投与量0.3mg/kgから10mg/kgの範囲では線形性の薬物動態を示し、半減期は約21日であった7)。また、血中のfree VEGFはBevacizumab投与量0.3mg/kg以上で測定感度以下となった。有害事象としては血圧上昇 (10〜15 mmHg)、grade 1/2の頭痛、嘔気などを認め、3.0mg/kg以上の投与量で腫瘍内出血が5例中2例認められたが、最大耐量 (maximum tolerated dose: MTD) には達しなかった。前臨床試験において、定常状態のトラフ値が10-30μg/mL以上の場合での抗腫瘍効果が最大であったことが考慮され、2〜3mg/kg週1回投与が推奨用量 (recommended dose: RD) とされた。
 大腸癌を含む固形癌患者を対象にBevacizumab (3mg/kg週1回投与) の併用療法を検討した第Ib相試験では、大腸癌患者に対する5-FU/LV療法との併用療法で大きな毒性を認めなかった8)。そして、5-FU/LV療法と5-FU/LV + Bevacizumab (5mg/kg隔週投与) 療法、5-FU/LV + Bevacizumab (10mg/kg隔週投与) 療法を比較する無作為化第II相試験 (AVF0780g試験) では、奏効率はそれぞれ17%、40%、24%、PFS (progression-free survival) 中央値はそれぞれ5.2ヵ月、9.0ヵ月、7.2ヵ月、OS (overall survival) 中央値はそれぞれ13.8ヵ月、21.5ヵ月、16.1ヵ月と、いずれも5mg/kg併用群で良好な成績であった9)。この結果から、以後の大腸癌初回治療例を対象にした臨床試験では、5mg/kg隔週投与の投与量が採用されている。当時の標準治療であったIFL療法とBevacizumab併用療法を比較する第III相試験 (AVF2107g試験) では、当初IFL + placebo群、IFL + Bevacizumab群、5-FU/LV + Bevacizumab群の3群に1:1:1で割付けられたが、313例が登録された時点の中間解析においてIFL + Bevacizumab群の安全性に重大な問題がなかったことから、以後はIFL ± Bevacizumabの比較試験として継続され、最終的にIFL + placebo群411例、IFL + Bevacizumab群402例が登録された10)。結果、主要評価項目であるOSにおいてIFL + placebo群15.6ヵ月、IFL + Bevacizumab群20.3ヵ月と、Bevacizumab併用で有意な延長を認めた (p<0.001)。その後、BICC-C試験NO16966試験が行われ、L-OHPやFOLFIRIへのBevacizumabの有用性が示されている11, 12)
 また、既治療例では、CPT-11 + 5-FU併用療法不応例を対象に、FOLFOX4療法、FOLFOX4 + Bevacizumab療法、Bevacizumab単独療法を比較する第III相試験 (E3200試験) が行われ、Bevacizumab併用によるPFS、OSの延長が示された13)。本試験では、前臨床の結果で用量依存性にBevacizumabの効果が増強すること、非小細胞肺癌におけるCarboplatin + Paclitaxel (CP) 療法とCP + Bevacizumab (7.5mg/kg 3週毎) 療法、CP + Bevacizumab (15mg/kg 3週毎) 療法の無作為化比較第II相試験で、15mg/kg併用群が7.5mg/kg併用群と比較して奏効率、TTP (time to progression) が良好な傾向であった14) ことなどが考慮され、Bevacizumabの投与量は10mg/kg 隔週とされている。以上の結果を踏まえて、米国FDAは2006年6月に2nd-lineにおいて5-FU/LVを含む全てのレジメンでBevacizumab併用療法を承認した。
 大腸癌に対するBevacizumab併用療法の臨床的な特性として、単剤では有効性が乏しいものの、細胞傷害性抗癌剤との併用により抗腫瘍効果を発揮し、かつ細胞傷害性抗癌剤による下痢、悪心などの副作用を増強しないことが挙げられる。実際、NO16966試験における薬剤投与量の検討において、細胞傷害性抗癌剤の予定投与量に対する実際の投与量 (相対用量強度、relative dose intensity: RDI) は、Bevacizumab併用群とplacebo群とで差を認めなかった12)。細胞傷害性抗癌剤との併用療法にて治療効果の上乗せを期待するには、ベースの治療のRDIを保つことが重要な要素の1つであると考えられる。

2.1.2 Aflibercept (VEGF trap, AVE0005)

 AfliberceptはVEGFR-1とVEGFR-2の細胞外ドメインの一部をヒトIgG1のFc領域に融合させた組換えタンパク質であり、VEGFに対する抗体医薬ではなく (デコイ) レセプターである。AfliberceptはVEGF (VEGF-A) の全ての異性体だけでなく、他のVEGFRリガンドであるVEGF-B、PlGFにも結合 (trap) し、癌の血管新生を阻害することで抗腫瘍効果を発揮する。難治性固形癌および非ホジキンリンパ腫を対象としたAflibercept単剤療法の第I相用量漸増試験では、登録された47人の患者に対して用量0.3〜7.0mg/kg、隔週で投与された15)。結果、7.0mg/kg群で13例中2例にDLT (dose-limiting toxicity) (直腸潰瘍、蛋白尿) が認められた。また、高血圧を1.0〜3.0mg/kgでの投与期間内に14.3〜16.7%、4.0〜7.0mg/kgでは57.1〜75.0%に認めた。薬物動態 (pharmacokinetics: PK) /薬力学 (pharmacodynamics: PD) 解析では、遊離型VEGF trapの半減期は約5日で投与量に依存して濃度上昇がみられたが、VEGF結合型VEGF trapの半減期は約20日で2.0mg/kg以上の投与量ではプラトーに達した。このことから、Afliberceptの投与量が2.0kg/mg以上であれば血中VEGFを十分trapできていると考えられ、単剤療法での推奨投与量は4.0mg/kg隔週投与と決定された。
 さらに固形癌を対象としてCPT-11 + LV5FU2にAfliberceptの併用を行う用量漸増第T相試験が行われ (2〜6mg/kg)、大腸癌23例を含む38例が登録された16)。DLTは4mg/kg群で2 /12例 (蛋白尿)、5mg/kg群で2/10例 (口内炎、胃食道逆流)、6mg/kg群で3/12例 (発熱性好中球減少症、口内炎) に認めた。PK解析で遊離型VEGF trapの血中量が常時結合型VEGF trapを上回るのは投与量4mg/kg以上であったこと、4mg/kg群の5 /10例でPRが認められたこと、それ以上の用量増加にて毒性や抗腫瘍効果に明らかな差を認めなかったこと等から、推奨投与量は4mg/kgに決定された。さらにFOLFIRI療法とAflibercept (4mg/kg) 併用療法の安全性確認試験が大腸癌19例を含む27例を対象として行われ、Aflibercept関連の有害事象としてgrade 2/3の高血圧をそれぞれ26%、15%、grade 2の発生困難を11%、grade 2の蛋白尿を4%認めるも忍容性は良好であったことから、第III相試験のAfliberceptの推奨用量は4mg/kgとされた。

 その後L-OHPベースの初回化学療法に不応となった大腸癌患者を対象にFOLFIRI + placebo群とFOLFIRI + Aflibercept群とを比較する第III相試験 (VELOUR試験) が行われた17)。結果、主要評価項目のOS中央値はそれぞれ12.06ヵ月、13.50ヵ月 (HR=0.817, 95.34% CI: 0.713-0.937, p=0.0032)、副次評価項目のPFS中央値はそれぞれ4.7ヵ月、6.9ヵ月 (HR=0.758, p<0.0001)、奏効率はそれぞれ11.1%、19.8% (p<0.001) と、Aflibercept群で有意に良好であった。また、本試験は初回治療でのBevacizumab使用歴が層別因子に含まれており、Bevacizumab使用例における有効性の検討では、Bevacizumab未使用群853例ではOSのHRが0.788、Bevacizumab使用群のHRは0.862と、抗VEGF抗体薬であるBevacizumabの使用歴がある集団に対しても良好な傾向を認めた。Grade 3/4の有害事象は、下痢、倦怠感、口内炎、高血圧、腹痛、好中球減少、蛋白尿がAflibercept群で多く認められ、有害事象に伴う治療中止例はplacebo群12.1%、Aflibercept群26.6%と、Aflibercept群で多かった。また、5-FU、CPT-11の減量、中止を要した割合はplacebo群で5-FUが21.7%、CPT-11が22.6%、Aflibercept群ではそれぞれ39.1%、37.2%であった。
 一方、L-OHPベースレジメンとAfliberceptの併用については、初回治療におけるmFOLFOX6 ± Afliberceptのオープンラベル無作為化第II相試験 (AFFIRM試験) が行われた18)。主要評価項目の12ヵ月PFSはmFOLFOX6群 (117例) 21.2%、mFOLFOX6 + Aflibercept群 (119例) 25.8%であり、PFS中央値はそれぞれ8.77ヵ月、8.48ヵ月、奏効率は45.9%、49.1%であった。群間比較する試験デザインではないものの、Aflibercept併用による明らかな上乗せ効果は認められなかった。
 2012年8月、米国FDAはL-OHPによる前治療歴のある大腸癌を対象にAfliberceptをFOLFIRIとの併用で承認した。本邦では、大腸癌既治療例を対象にFOLFIRI + Aflibercept療法の第I相試験が行われ、推奨用量は海外と同じ4mg/kgと決定されている19)。現在、中国・台湾・シンガポールで行われているL-OHPベースの化学療法に不応となった患者を対象としたVELOUR試験と同様のデザインの第III相試験 (AFLAME試験) に参加している20)

2.1.3 Ramucirumab (IMC-1121B)

 RamucirumabはVEGFR-2の細胞外ドメインに特異的に結合する完全ヒト型IgG1モノクローナル抗体である。VEGFR-2のリガンドには、VEGF-AだけでなくVEGF-CやVEGF-Dも知られており、それらのリガンドとVEGFR-2の結合を阻害することで、癌の血管新生を抑制し抗腫瘍効果を発揮する。当初、マウスヒトキメラ型抗体 (IMC-1121) として開発されたが、半数の患者でヒト抗キメラ抗体が出現したため開発中止となり、その後完全ヒト化抗体 (IMC-1121B) に改良されて臨床開発が行われている128)。難治性固形癌を対象としたRamucirumab単剤療法の第I相用量漸増試験では、37人の患者に対して用量2〜16mg/kg、週1回で投与された129)。結果、16mg/kg群で2例にDLT (深部静脈血栓症、高血圧) が認められ、MTDは13mg/kgに決定された。測定可能病変を有する27例中、PRを4例 (胃癌、子宮平滑筋肉腫、卵巣癌、メラノーマ) に認め、大腸癌2例を含む7例で6ヵ月以上のSDが得られた。その後、6-10mg/kgの隔週投与法の第I相試験が行われ (詳細な結果は未公表) 、現在では8mg/kg隔週投与で開発が進んでいる。
 本邦でも、5-FU + L-OHP + Bevacizumab療法に不応となった大腸癌を対象に、FOLFIRI療法 (CPT-11は180mg/m2) とRamucirumab 8mg/kg隔週投与の 第Ib相試験が行われた130)。DLTは6例中1例 (grade 2の蛋白尿とgrade 4の好中球減少による2週間以上の投与延期) に認めるのみであった。現在、5-FU + L-OHP + Bevacizumab療法に不応となった大腸癌を対象としてFOLFIRI + Ramucirumab療法とFOLFIRI療法を比較する第III相試験 (14T-MC-JVBB試験) が、本邦も参加するグローバル試験として行われている。

2.1.4 VEGFRチロシンキナーゼ阻害剤
2.1.4.1 Vatalanib (PTK787/ZK222584)

 VatalanibはVEGFR-1、VEGFR-2、VEGFR-3を標的としたチロシンキナーゼ阻害剤であり、in vitroでの50%阻害濃度 (IC50) はそれぞれ77nM、37nM、270nMと報告されている21)。大腸癌初回治療例としてFOLFOX4と併用する第Ib相用量漸増試験 (35例) では、Vatalanibに関連するDLTとして、めまい、運動失調を認め、推奨投与量は1,250mg/day 1日1回投与と決定された22)。また、治療効果に関する探索的な検討において奏効率48.6%、PFS中央値11.4ヵ月と良好な結果を示したため、第II相試験の結果を待たず、大腸癌初回治療例を対象にFOLFOX4 + placebo療法とFOLFOX4 + Vatalanib療法を比較する第III相試験 (CONFIRM-1試験) が行われた23)。2003年2月から2004年5月までの期間に1,168例が登録され、主要評価項目のPFS中央値はplacebo群7.6ヵ月、Vatalanib群7.7ヵ月 (HR=0.88, 95% CI: 0.74-1.03, p=0.118)、OS中央値はplacebo群20.5ヵ月、Vatalanib群21.4ヵ月 (HR=1.08, 95% CI: 0.94-1.24, p=0.260) と、ともに差を認めなかった。Grade 3/4の有害事象として、高血圧 (6.8% vs. 23.0%)、めまい (2.3% vs. 7.4%)、肺塞栓症 (1.7% vs. 5.7%) などがVatalanib群で有意に多く認められた。また、DI (dose intensity) の中央値は、L-OHP (65.8% vs. 60.6%)、5-FU bolus注射 (69.4% vs. 62.9%)、5-FU持続注射 (70.6% vs. 64.4%) いずれもVatalanib群で低い傾向にあった。なお、探索的検討では、治療前LDH高値群 (施設基準上限の1.5倍以上) においてVatalanib群でPFSが延長する傾向にあった (5.8ヵ月 vs. 7.7ヵ月, HR=0.67, 95% CI: 0.49-0.91, p=0.009)。
 さらに、前治療歴のある大腸癌患者855例を対象に、FOLFOX4 + placebo療法とFOLFOX4 + Vatalanib療法とを比較した第III相試験 (CONFIRM-2試験) でも、主要評価項目のOS中央値はplacebo群11.9ヵ月、Vatalanib群13.1ヵ月と上乗せ効果を認めなかった (HR=1.00, 95% CI: 0.87-1.16, p=0.957) 24)。PFS中央値はplacebo群4.2ヵ月、Vatalanib群5.6ヵ月とVatalanib群で良好な結果を示し (HR=0.83, 95% CI: 0.71-0.96, p=0.013)、治療前LDH高値群 (施設基準上限の1.5倍以上) では、より差が大きかった (HR=0.63, 95% CI: 0.48-0.83, p<0.001)。
 以上から、大腸癌に対するFOLFOX4 + Vatalanib併用療法は、主要評価項目を達成できず、開発中止となった。その要因として、Vatalanibの半減期は4.6時間と報告されているにもかかわらず1日1回投与としたこと、毒性が上乗せされるためFOLFOX4の用量が低下すること、FOLFOX4へのVEGFR阻害療法は上乗せ効果が小さいかもしれないこと、などが推察されている。抗VEGF抗体薬であるBevacizumabの成功があり、VEGFRに対する低分子性分子標的抗癌剤への期待があっただけに残念な結果であった。

2.1.4.2 Cediranib (AZD2171)

 Cediranibは主にVEGFR-1、VEGFR-2、VEGFR-3を標的としたチロシンキナーゼ阻害剤であり、in vitroでのIC50はそれぞれ5nM、1nM未満、3nMと低濃度で阻害効果が認められている25)。また、c-KIT、PDGFR-α、PDGFR-β、FGFR1に対しても低濃度で阻害効果を持つとされる。難治性固形癌患者36例を対象に行われたCediranib単剤の用量漸増第I相試験が行われたが、主なDLTは高血圧であり、MTDは45mg/day 1日1回投与と決定された26)。大腸癌の初回治療例を対象として行われたmFOLFOX6 + Cediranib併用療法の第I相試験では、通常量のmFOLFOX6とCediranib (30mg、45mg) の併用が試みられ、30mgでの1例にのみDLT (grade 3の下痢) が認められた27)。一方、標準治療に不応となった患者を対象としたmFOLFOX6 + Cediranibの第I相試験28)では、30mg群において5例中2例でDLTの発現 (grade 3の下痢、疲労) を認め、MTDは20mgと決定された。

 これらの結果をもとに、初回治療例を対象にFOLFOX/CapOX + placebo療法とFOLFOX/CapOX + Cediranib療法とを比較する第III相試験 (HORIZON II試験)、ならびにFOLFOX6 + Bevacizumab療法とFOLFOX6 + Cediranib療法とを比較する第II/III相試験 (HORIZON III試験) が行われた。試験開始時には、両試験にCediranib 20mg群と30mg群の試験治療群が設定されていたが、両試験ならびに既治療例に対する無作為化第II相試験 (HORIZON I試験) を合わせた中間解析後は、20mg群のみで試験が継続された。HORIZON II試験29)ではPFSとOSがともに主要評価項目として設定されていたが、PFS中央値はplacebo群8.3ヵ月、Cediranib 20mg群8.6ヵ月と、Cediranib 20mg群で有意差を認めたものの (HR=0.84, 95% CI: 0.73-0.98, p=0.0121)、OS中央値はplacebo群18.9ヵ月、Cediranib 20mg群19.7ヵ月であり、有意差を認めなかった (HR=0.94, 95% CI: 0.79-1.12, p=0.5707)。一方、HORIZON III試験 30)は、主要評価項目であるPFS中央値がBevacizumab群10.3ヵ月、Cediranib群9.9ヵ月であり、Bevacizumab群に対する非劣性を示せなかった (HR=1.10, 95% CI: 0.97-1.25)。有害事象はgrade 3/4の下痢、疲労、好中球減少、高血圧、血小板減少の頻度がCediranib群で有意に多く、治療開始から6ヵ月時点におけるL-OHP、5-FUのDIはCediranib群で低かった。
 以上の両試験の結果から、Cediranibは大腸癌での臨床開発が中止された。FOLFOX + Cediranib療法はFOLFOX + placebo療法と比較してPFSの延長は示したことから、一定の抗腫瘍効果は有すると考えられるが、下痢などの有害事象の増強が問題となった。なお、本邦で行われたmFOLFOX6にCediranib (20mg、30mg)、placeboを併用する3群比較の第II相試験31)においても、placebo群と比較して20mg群はPFSが良好であったが30mg群では逆にやや劣る傾向であった。

2.1.4.3 Brivanib (BMS-582664)

 BrivanibはVEGFR-2、VEGFR-3を標的としたチロシンキナーゼ阻害剤であり、in vitroでのIC50はそれぞれ23nM, 10nMと低濃度で阻害効果が認められる32)。また、FGFR-1、FGFR-2、FGFR-3に対しても阻害効果を持ち、in vitroでのIC 50は150nM、125nM、68nMと報告されている。固形癌を対象としたBrivanibの第I相試験では、180〜1,000mgにて検討が行われたが、1,000mg/day内服群の4例中2例にDLTを認め、MTDは800mg/dayと決定された33)。800mgで行われた拡大コホートでは、頻度の高いgrade 3/4の有害事象は、疲労、高血圧、下痢、めまい、肝機能障害であった。基礎実験においてEGFR経路とVEGFR経路の阻害薬を併用すると相乗的な抗腫瘍効果が認められるという報告があったため、CetuximabとBrivanibの併用による用量漸増第I相試験が行われた結果、通常量のCetuximabとBrivanib単剤療法におけるMTDの800mgによる併用でもMTDに達しなかった34)。Cetuximab + Brivanib (800mg) 療法が行われた51例における有害事象の頻度は皮膚障害27.5%、疲労58.8%、下痢35.3%、食欲不振37.3%、AST上昇37.3%などであったが、grade 3/4の有害事象は少なく、有効性に関しては、KRAS野生型25例でのPFS中央値が7.2ヵ月と期待できる成績であった。
 この結果を受け、L-OHP、CPT-11不応のKRAS野生型大腸癌を対象にCetuximab + placebo療法とCetuximab + Brivanib療法とを比較する第III相試験 (NCIC/AGITG CO.20試験) が行われた35)。結果、PFS中央値はplacebo群3.4ヵ月に対してBrivanib群4.8ヵ月とBrivanib群で有意に良好であったが (HR=0.74, 95% CI: 0.64- 0.86, p<0.0001)、主要評価項目であるOSは、中央値がplacebo群8.2ヵ月、Brivanib群8.9ヵ月と両群に有意差を認めなかった (HR=0.89, 95% CI: 0.77-1.03, p=0.13)。Grade 3以上の非血液毒性は、疲労 (11% vs. 27%)、高血圧 (1% vs. 11%)、下痢 (3% vs. 8%)、ALT上昇 (5% vs. 22%)、発疹 (5% vs. 10%) がBrivanib群で多く、DIを90%以上維持できた割合は、Cetuximabが72% vs. 43%、placebo/Brivanibが86% vs. 47%と、Brivanib群で少なかった。
 BrivanibはCetuximab療法と併用することにより奏効率、PFSの改善を示したことから一定の抗腫瘍効果を持つと考えられるが、OSの延長を示すことはできなかった。第I相試験と第III相試験におけるgrade 3以上の非血液毒性は、疲労 (12.9% vs. 27%)、皮疹 (3.2% vs. 10%)、下痢 (1.6% vs. 8%)、高血圧 (1.6% vs. 11%) であり、第I相試験 (62例) には320mg (6例) 、600mg (5例) が含まれるものの、第III相試験での有害事象頻度が高い傾向がみられた。したがって、第I相試験では毒性が過小評価されていた、または第III相試験で PS 2の症例が約10%含まれていた等の違いが、第III相試験の結果に影響を及ぼした可能性がある。

2.1.4.4 Sunitinib (SU11248)

 SunitinibはVEGFR-2、PDGFR、c-KIT、FLT3、FGFR1などのチロシンキナーゼのATP結合部位に競合的に阻害作用を有する、分子量398.48の低分子性分子標的抗癌剤である36)。固形癌を対象に行われたいくつかの第I相試験の結果、連続投与法では蓄積性が認められ、4週内服2週休薬の投与法にてGIST、腎細胞癌で抗腫瘍効果が認められたことから、同様のスケジュールでその後の臨床試験が行われている37)。また、75mg/dayにてDLT (grade 3の疲労、高血圧) が認められ、前臨床試験で50mg/dayにてPDGFR、VEGFR-2阻害に必要とされた血中濃度に達したことから、50mg/dayが推奨用量と決定された。そして、2003年から5-FU、CPT-11、L-OHPを含む治療歴のある大腸癌患者84例を対象にSunitinib単剤療法の第II相試験が行われた結果、奏効率は1.2%、22週以上のSD持続は15.9%であった38)。Bevacizumab未使用例 (40例) とBevacizumab使用例 (42例) との比較では、22週位上のSD持続は未使用例27.5%、使用例4.8%と、未使用例で長期の病勢安定が得られる傾向が見られたが、単剤での効果は乏しいと考えられた。Grade 3/4の有害事象は、疲労 (14.6%)、下痢 (11.0%)、血小板数減少 (8.5%)、高血圧 (6.1%) 等が認められたが、忍容可能であった。
 そこで、大腸癌初回治療例を対象にmFOLFOX6およびFOLFIRIへのSunitinibの併用療法が試みられた。mFOLFOX6 + Bevacizumab療法とmFOLFOX6 + Sunitinib (37.5mg/day、4週内服2週休薬) 療法とを比較する無作為化第II相試験では、PFS中央値はBevacizumab群11.2ヵ月、Sunitinib群9.1ヵ月であり (HR=1.598, p=0.96)、Sunitinib群の優越性は示されなかった39)。Grade 3/4の有害事象は好中球減少 (22% vs. 66%)、血小板数減少 (3% vs. 34%) がSunitinib群で頻度が高かった。また、FOLFIRI + placebo療法とFOLFIRI + Sunitinib (37.5mg/day、4週内服2週休薬) 療法とを比較した第III相試験では、主要評価項目のPFSで有効性が示されず中間解析で中止となっている40)。PFS中央値はplacebo群8.4ヵ月、Sunitinib群7.8ヵ月 (HR=1.095, p=0.8072)、OS中央値はplacebo群19.8ヵ月、Sunitinib群20.3ヵ月であった (HR=1.171, p=0.9163)。Grade 3/4の有害事象は、好中球減少 (30% vs. 68%)、下痢 (8% vs. 16%)、血小板数減少 (1% vs. 11%) などにおいてSunitinib群で頻度が高かった。
 大腸癌に対するSunitinibは単剤では効果が乏しく、細胞傷害性抗癌剤との併用では血球減少など毒性の増強が認められた。本邦で行われた第I相試験でも、mFOLFOX6 + Sunitinib (37.5mg/day、4週内服2週休薬) 療法での各薬剤のDIは、Sunitinibが50.4%、L-OHPが56.3%、5-FU bolus/infusionalが39.2%/53.1%と報告されており41)、初回治療におけるkey drugである5-FU、L-OHPの投与量が極端に少なくなってしまうことが大きな問題点と考えられる。

2.1.4.5 その他のVEGFRチロシンキナーゼ阻害剤

 BIBF1120はVEGFR1-3、PDGFR-α/β、FGFR1-3を標的とした低分子性分子標的抗癌剤である。大腸癌の初回治療としてmFOLFOX6 + Bevacizumab療法とmFOLFOX6 + BIBF1120療法とを比較する無作為化第II相試験では、9ヵ月PFSがBevacizumab群69%、BIBF1120群63%と同等であった42)。有害事象はBIBF1120群で軽度であり、消化管穿孔を含む消化器系の重篤な有害事象発生割合もBIBF1120群で少なかった (29.3% vs. 11.8%)。現在、CPT-11ベースレジメン後の2nd-lineにおいてmFOLFOX6 + placebo療法とmFOLFOX6 + BIBF1120療法とを比較する無作為化第II相試験 (TRICC-C試験) が行われている43)
 Axitinib (AG-013736) はVEGFR1-3の選択的なチロシンキナーゼ阻害剤であり、現在、腎細胞癌に対して米国FDA、日本での承認が得られている。大腸癌の初回治療例を対象に、mFOLFOX6に対するBevacizumab併用群、Axitinib併用群、Bevacizumab + Axitinib併用群を比較した無作為化比較第II相試験では、奏効率はBevacizumab併用群49%、Axitinib併用群29%、Bevacizumab + Axitinib併用群39%であり、PFS中央値はそれぞれ350日、315日、377日と、Axitinibの有効性は示されなかった44)
 PazopanibはVEGFR1-3、PDGFR-α/β、c-KITに対する阻害剤であり、悪性軟部腫瘍に対して2012年承認されている。大腸癌に対しては、初回治療におけるFOLFOX6/XELOXとの併用療法や45)、2nd-lineにおけるCPT-11 + Cetuximabとの併用療法についての第I相試験の報告があるものの46)、その後の開発は行われていないようである。
 Tivozanib (AV-951) はVEGFR1-3の選択的阻害剤である。現在、初回治療例を対象にmFOLFOX6 + Bevacizumab療法とmFOLFOX6 + Tivozanib療法の無作為化比較第II相試験が行われている47)
 Vandetanib (ZD6474) はVEGFR-2 (IC50 40nM)、VEGFR-3 (110nM)、RET (130nM)、EGFR (500nM) などのマルチキナーゼ阻害剤である48)。CPT-11不応例を対象としたmFOLFOX6 ± Vandetanib (100mg、300mg) 49)、L-OHP不応例を対象としたFOLFIRI ± Vandetanib (100mg、300mg) の無作為化第II相試験が行われたが50)、いずれも明らかな上乗せ効果は認められなかった。
 Linifanib (ABT-869) は、VEGFR-2 (IC50 8nM)、FLT-1 (3nM)、PDGFR-α (29nM)、CSF-1R (5nM) などを標的としたマルチキナーゼ阻害剤である。mFOLFOX6 + Bevacizumab療法と、mFOLFOX6 + Linifanib療法とを比較した無作為化第II相試験が行われたが、Bevacizumab群を上回る効果は認められなかった51)

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