MYH遺伝子異常による常染色体劣性遺伝形式の大腸腺腫性ポリポーシス
Julian R. Sampson, et al., Lancet 362, 2003:39-41
腺腫性ポリポーシスと大腸癌が多発する家族性大腸腺腫症(FAP)および散発型ポリポーシス(AFAP)は、APC遺伝子異常を原因とする常染色体優性遺伝疾患として知られている。一方、塩基除去修復遺伝子であるMYH遺伝子異常により同様のポリポーシスが、常染色体劣性遺伝形式で発現することが報告された。本研究はAPC遺伝子異常を示さないポリポーシス患者のMYH遺伝子を解析したものである。
英国の6カ所におよぶ大腸ポリポーシス患者の地域登録から、1)家族歴中、ポリポーシスが親子間で発生していない、2)大腸癌の発生の有無にかかわらず少なくとも10個以上の大腸腺腫の発症、3)遺伝子検査で明らかなAPC遺伝子異常が検出されていない、以上の基準に当てはまる患者の血液DNAサンプルからMYH遺伝子異常を検索した。
基準を満たしたのは614例で、そのうち111例で、血液DNAサンプルの検索が可能であった。検索例のうち25例(23%)で両鎖ともにMYH変異を認めた。平均年齢は46歳(13〜65歳)で、男女比は18対7であった。11例で10〜100個、9例で100個以上、5例は計数できないほど多いポリープを認めるか、大腸全体に及ぶ例であった。また、12例(48%)で大腸癌を合併していた(診断時の年齢は平均49.7歳)。2例で2個、2例で4個の原発性大腸癌を認めた。他臓器癌を認めたのは1例のみで胃癌であった。また、これらMYH遺伝子異常を認めた25例の両親50名中大腸癌は2例に認められ、同胞64名中17例(27%)でポリポーシスを認めた。
ポリポーシスの発現には、MYH遺伝子異常も重要な成因の一つである。
大腸ポリポーシスの成因に新たな知見。遺伝カウンセリングにどう生かすか?
ポリープの数が100個以下と比較的少ない場合は、AFAPとして亜分類されていたが、AFAPのみならずFAPにもAPC遺伝子異常を認めなかったり、家系内での集積性が弱い、あるいはスリンダクによる化学予防が無効な症例など、表現型や生物学的態度に差があるものがあった。これらの症例の中にはMYH遺伝子異常が関与するものがあることを証明した価値ある研究である。本研究では計測不能な多数のポリープを認める症例も含まれている反面、15個のポリープ症例でMYH遺伝子異常が報告されており、表現型は多岐にわたる。この点も考慮して、APC遺伝子異常がないポリポーシスではMYH遺伝子も検索する必要がある。また、遺伝形式が異なることをふまえ、成因により細分化したカウンセリングを行い、サーベイランスプログラムを実行することが重要であろう。
(内科・小泉浩一)