バレット食道における異型上皮 −化学的予防策に対する示唆−
Christopher D.Lao, M.D., M.P.H., et al., Cancer 100(8) , 2004:1622-1627
慢性的に胃食道逆流現象がある患者の10-15%に、粘膜が異型上皮(円柱上皮)に変化するバレット食道が生じるが、このバレット食道をもつ患者では、食道腺癌のリスクが通常の30〜40倍になるといわれる。限られたデータではあるが、5年以上経過するとバレット食道における低度異型上皮が高度異型上皮もしくは癌へ移行する確率は、10%から30%の幅を持って報告されている。最近、difluoromethylornithine(DFMO)を用いた化学的予防治療の無作為化試験が行われたが、報告されている異型上皮の頻度は非常にばらついており、臨床研究の妨げになっている。今回の研究目的は、化学的予防を行う上で有用となるバレット食道における異型上皮の正確な頻度を決定することである。
今回の検討では、3施設、Michigan Medical Center大学、Henry Ford病院(デトロイト)、Brigham and Women病院(ボストン)において、過去5年間にバレット食道と診断された症例で、食道胃接合部より上の生検材料の病理標本を再評価した。その結果、790例のバレット食道が確認され、37例(4.7%)が低度異型上皮(男性78%、女性22%)、20例(2.5%)が高度異型上皮(男性90%、女性10%)であった。施設ごとに低度異型上皮の頻度をみると、Michigan
Medical Center大学5.0%、Henry Ford病院7.9%、Brigham and Women病院1.7%であり、Henry Ford病院とBrigham
and Women病院の間で有意差があった(p=0.004)。3施設を合計すると、各年次において異型上皮が認められなかった症例は118〜174例/年、低度異型上皮は5〜12例/年、高度異型上皮は2〜6例/年であった。
異型上皮は前癌状態であり、癌増殖の予測因子となりうる。今回のような多施設での解析に基づき、今後の臨床試験のデザインが行なわれることが望まれる。
バレット食道の異型上皮;診断の統一と治療への展望
バレット食道の異型上皮については1988年にその診断基準が確立され、2001年にさらに改正されたが、依然その診断は重要な課題のままである。最近の多施設共同の検討では低度異型上皮の頻度は9.4%と報告されているが、他の報告では約75%の患者では低度異型上皮は確認されないとされているなど、報告による差が大きい。低度異型上皮は食道腺癌の前癌状態であり、その予防戦略の中では有力な予測因子であるが、こうした診断上の問題がある限り、化学的予防策の臨床試験にも影響を与える。将来的には生物学的マーカーなどによる診断の開発が望まれるが、現状では、常に炎症との鑑別が問題となる低度異型上皮の診断は、継続的な課題となっている。今後日本でもバレット食道の増加とともに、同様の問題が生じると考えられ、主観に頼らない有用なマーカーが発見されることが望まれる。
(内科・藤崎順子)