Oxaliplatin導入後の影響

進行胃癌1st-lineでのOxaliplatin用量やCisplatinとの使い分けについて

仁科先生

室:続いて、胃癌治療におけるOxaliplatinの位置づけと臨床試験データについて仁科先生にご紹介いただきましょう。

仁科:Oxaliplatinを含むSOXやXELOXが胃癌の1st-lineで使用できるようになって1年が経過しました。そこで、実際の使用経験を踏まえ、Oxaliplatin用量や、OxaliplatinとCisplatinとの使い分けについて議論させていただきたいと思います。2015年以降の胃癌治療アルゴリズムでは、HER2陰性胃癌の1st-lineに、SOXとXELOXが推奨度2で設定されました。次期ガイドラインではSOXとXELOXの推奨度がさらに上がる可能性もあります。

最初にG-SOX試験をご紹介します。切除不能・再発胃癌患者685例を対象に、SOX(S-1 80mg/m2、Oxaliplatin 100mg/m2)のSPに対する非劣性を検証した第III相試験です。PFSおよびOSが共に主要評価項目でした。PFS中央値はSOX群5.5ヵ月、SP群5.4ヵ月、HR=1.004(95%CI, 0.840-1.199)であり、PFSの非劣性マージン1.30に対して、SOX療法の非劣性は証明されました(非劣性p=0.0044)(図42)

一方、G-SOX試験のOS中央値はそれぞれ14.1ヵ月、13.1ヵ月、HR=0.969(0.812-1.157)であり、OSの非劣性マージン1.15に対する非劣性はわずかに証明されませんでした(非劣性 p=0.0583)。しかし、PS2かつ術後補助化学療法ありの症例(SOX療法群1例、SP療法群0例)が層別解析から除外されていたので、事後的にこの症例を含めた解析を行うと、非劣性が認められました(HR=0.958, 95% Cl: 0.803-1.142, 非劣性p=0.0420)(図52)。主なgrade 3以上の有害事象は好中球減少症、貧血、食欲不振などで、いずれの事象の発現率もSOX群と比べてSP群の方が有意に高く、末梢神経症状についてはSOX群の方が有意に高い発現率でした(p<0.0001)。

次に、2016年米国臨床腫瘍学会年次集会で発表されたSOPP試験をご紹介します。SOPP試験は、転移性または再発胃腺癌患者338例を対象に、主要評価項目PFSに関して、SOX(S-1 80mg/m2, Oxaliplatin 130mg/m2)のSPに対する非劣性を検証した試験です。G-SOX試験とはOxaliplatinの用量が異なります3)。PFS中央値はSOX群5.6ヵ月、SP群5.7ヵ月(HR=0.85, 95% CI: 0.647-1.07, p<0.001)で、95% CI上限値が非劣性マージン1.40を下回ったことから、SP群のSOX群に対する非劣性が示されました(図63)。有害事象に関しては、grade 3以上の好中球減少や白血球減少がSP群で、血小板減少や末梢神経障害がSOX群で多く発現しましたが、いずれも想定の範囲内であったことから、Oxaliplatinを130mg/m2に増量しても忍容性は良好であることがわかりました。

室:ありがとうございました。設樂先生は進行再発胃癌の1st-lineではOxaliplatinとCisplatinのどちらを多く使用されていますか。

設樂:私は外来診療での点滴時間を考慮して、ほとんどの症例でOxaliplatinを使用しています。消化器症状の発現頻度がCisplatinと比べてOxaliplatinの方が少ない印象があることも理由の1つです。大腸癌で使用する場合と同様に、早期から減量、休薬、再開を意識して使用し、しびれの発現リスクを抑えるようにしています。

室:当院でもOxaliplatinの投与例が圧倒的に多く、プラクティスにおけるCisplatinの投与例は適応患者の1割くらいです。

仁科:一般臨床ではOxaliplatinベースのレジメンを選択することが多いですね。ただし、私はガイドラインでの第一推奨がS-1+Cisplatinであることや副作用の発現リスクなどを患者さんにお伝えした上で選択していただいています。Oxaliplatinは外来でも投与できますし、高齢者にも使いやすい点を評価しています。

沖:私もほとんどがOxaliplatinですが、当院を受診する患者さんには離島にお住まいの方もおり、入院を希望される方も多いので、5週毎投与のCisplatinも場合によっては利便性が高いと考えています。Oxaliplatinを入院で投与するとなると、3週間おきに入院することになり、かなり難しいです。

室:患者さんの希望があればCisplatinを選択するということですね。佐藤先生はいかがですか。

佐藤:患者さんや施設の負担を考えるとOxaliplatinを選択せざるを得ない状況です。Cisplatinは点滴時間を短縮しても負担は大きいですし、定期的に入院していただくことも難しいので、Cisplatinの投与はほとんど行っていません。

室:どの先生方もCisplatinよりOxaliplatinの使用頻度が高いようですね。全国的には、おそらくCisplatinの使用率がもう少し高くなると思いますが、今後はOxaliplatinの使用が増えていくと予想しています。さて、次にSOXのOxaliplatin用量についてご意見を伺います。100mg/m2を採用されている先生が多いのでしょうか。

設樂:進行再発胃癌に対する通常の治療では100mg/m2を投与しています。支持療法が増えたとは言え、消化器症状やしびれの発現リスクはゼロではありませんし、130mg/m2で開始しても長期の治療経過中に100mg/m2以下に減量するケースは多いです。

沖:私達は、化学療法未治療のHER2陽性進行再発胃癌を対象にTrastuzumab+SOXの第II相試験を実施しました。Oxaliplatinを130mg/m2に設定しましたが、奏効率は82%で、有効性が高いと予想されます。

仁科:確かに高用量になるほど有効性が高いイメージはあります。腫瘍による有症状のため、縮小効果を期待したい方には130mg/m2は選択肢の1つになるかもしれません。

室:術前化学療法ではOxaliplatinの用量を130mg/m2で投与する流れになっていますから、進行期の治療でも130mg/m2が採用される可能性はありますね。ただし、SOX療法を術後補助化学療法として130mg/m2で行う場合の毒性増強(消化器毒性、血小板減少など)には十分注意が必要かと思います。

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