ケースカンファレンス〜トップオンコロジストはこう考える〜

日常診療で遭遇する症例を取りあげ、トップオンコロジストが治療方針を議論するケースカンファレンスをお届けします。

Special1

2018年11月開催

特別企画
「胃癌に対するがん免疫療法の治療戦略」

  • 牧山 明資 先生牧山 明資 先生
    JCHO 九州病院
    血液・腫瘍内科
  • 加藤 健 先生加藤 健 先生
    国立がん研究センター
    中央病院 消化管内科
  • 門脇 重憲 先生門脇 重憲 先生
    愛知県がんセンター中央病院 薬物療法部
  • 砂川 優 先生砂川 優 先生
    聖マリアンナ医科大学
    臨床腫瘍学

Nivolumab投与患者のprediction

治療効果の予測因子

牧山最後に砂川先生からバイオマーカーをテーマにお話しいただきたいと思います。

砂川先生

砂川ご承知のとおり、胃癌ではPD-L1発現はNivolumabの効果予測因子ではありません。ATTRACTION-2の試験結果からは、PD-L1陰性例でもNivolumab群はプラセボ群と比較して、統計学的有意差はないもののOSの延長傾向が認められています1)。最近になり、進行胃癌に対する2次治療としてのPembrolizumabの有用性を検討したKEYNOTE-061試験の結果から、Pembrolizumabの効果予測因子は、腫瘍細胞におけるPD-L1陽性細胞の割合であるTPS(tumor proportion score)ではなく、腫瘍細胞、リンパ球およびマクロファージにおけるPD-L1陽性細胞数を総腫瘍細胞数で除し、100を乗じた数値であるCPS(combined positive score)である可能性が報告されました2)。腫瘍微小環境を、PD-L1発現の有無と腫瘍内浸潤リンパ球(TIL)の有無から4種類にサブタイピングすると、TIL陽性/PD-L1陽性であるType IおよびTIL陽性/PD-L1陰性であるType IVが、抗PD-1抗体単剤あるいは併用で効果が認められる“Hot tumor”であるといわれています3)。“Hot tumor”とは、腫瘍微小環境においてCD8陽性T細胞の浸潤が有意に多く認められるT cell-inflamedで、抗PD-1抗体薬の効果が得られにくいとされている“Cold tumor”とは、CD8陽性T細胞の浸潤が認められないNon-T cell-inflamedです4)。両者の違いはWNT/β-カテニン経路活性の有無にあり、WNT/β-カテニン経路活性があることによってT細胞が排除され、“Cold tumor”になるという報告があります(図15)。こうした知見が注目され、“Cold tumor”を“Hot tumor”に変化させる薬剤の開発も進められています。

Reprinted from Cancer Treat Rev 49: 1-12. Xue G, et al.: Wnt/b-catenin signaling in melanoma: Preclinical rationale and novel therapeutic insights. Copyright 2016, with permission from Elsevier.

 また、最近、腫瘍組織中の遺伝子変異量の指標となるTMB(Tumor Mutational Burden)が多い癌種では、免疫チェックポイント阻害薬の効果が高いことが示されました6)。DNAミスマッチ修復機構欠損ありの消化器癌では、TMBと抗PD-1/PD-L1抗体薬の奏効割合が相関していますが、結腸癌でDNAミスマッチ修復機構欠損がないものでは、TMBと奏効割合に相関性がありません。DNAミスマッチ修復機構欠損がない非結腸癌、特に胃癌ではどうなっているのか、気にかける必要があると思います。
 そして、immune-gene signatureで免疫チェックポイント阻害薬の効果を予測できるという報告もありますが7)、どの遺伝子に注目すべきかがまだ不明確ですし、検査には手間がかかるため臨床応用が可能なのかどうかという課題があります。また、TMBと遺伝子発現プロファイリングの組み合わせでサブタイピングすることで、効果を予測し得るという報告があります8)。このような知見を総合すると、1つの指標だけでは免疫チェックポイント阻害薬の効果を予測するのは現段階では難しいようです。
 さて、TCGA(The Cancer Genome Atlas)では、胃癌をEBV(Epstein-Barr Virus)陽性、MSI、ゲノム安定性、染色体不安定性の4つの分子学的サブタイプに分類しました9)。このうち、免疫チェックポイント阻害薬の効果が期待されているのは、immune cell signalingが活性化しているEBV陽性胃癌、それからMSI-Highを示す胃癌です。こうした症例は、免疫チェックポイント阻害薬に対して持続的に反応することも期待されていますので、EBV陽性、MSI-Highがどの程度の効果予測マーカーとなり得るのかについても大きな関心を呼ぶところです。
 図2には胃癌に対する免疫チェックポイント阻害薬の効果を予測し得るバイオマーカーに関して、ここまでのまとめを示しました。効果予測のバイオマーカー候補の1つはCPSですが、臨床で活用するためにどの程度まで練り上げられるかが今後注目されると思います。また、TMBも期待されるバイオマーカーの1つです。しかし、癌種によってカットオフ値が大きく変化すること、whole genomeで評価するのか、gene panelで評価するのかがまだ決まっておらず、個人的には消化器癌ではまだ難しいという印象があります。それから、immune-gene signatureは定義が難しい、分子学的サブタイプはそれだけでは絞り込めないという課題がそれぞれにあります。現時点ですぐに臨床応用できる可能性がある効果予測のバイオマーカー候補は、EBV陽性、MSI-Highです。いずれにしても、単一のバイオマーカーで免疫チェックポイント阻害薬の効果を予測するのは難しく、腫瘍側の因子のみで決まらない可能性もあるので、宿主側の因子も考慮する必要があります。例えば、KYENOTE-061試験のサブ解析結果からは、PS 0がバイオマーカー候補の1つであることが示されています2)。また、他癌種では腸内細菌が免疫チェックポイント阻害薬の効果と相関していることから、胃癌での相関性が注目されます。国内における胃癌症例も含めた数十例の検討からは、特定の細菌種と免疫チェックポイント阻害薬の効果の相関性や、腸内細菌の多様性が免疫チェックポイント阻害薬の効果と相関することが報告されています10)。私自身、腸内細菌との関連性について研究を開始しており(DELIVER試験:UMIN000030850)、何らかの知見が得られることを期待しています。

免疫療法耐性の予測因子

砂川免疫チェックポイント阻害薬の効果が得られない集団として、先天的理由で効果が得られないprimary or adaptive resistance集団と後天的理由で効果が得られないacquired resistance集団の2種類が存在します。前者では、腫瘍周囲の内的要因により、腫瘍の成長が免疫に依存していません。一方、後者は何らかの要因でT細胞が排除されているか、あるいは免疫チェックポイント阻害薬の耐性機序として、JAK1/JAK2遺伝子の関与が指摘されています。

irAE

砂川Nivolumab投与時の悪性黒色腫のデータからは、免疫関連有害事象(irAE)のGradeではなく、irAEの数が奏効割合と相関することが示されています11)。すなわち、悪性黒色腫ではさまざまなirAEが発現すると、効果があるということになりますので、irAEの数に注目するのは大事なことであるかもしれません。また、性差に注目して免疫チェックポイント阻害薬の毒性発現をみると、Grade 3以上の毒性の発現率は女性で多く、特に消化器毒性の発現が多いことが報告されています12)。確かに、免疫に関しては性差があってもおかしくはなく、宿主側のバイオマーカーを検索していく価値は十分にあると考えられます。また、腸内細菌と免疫チェックポイント阻害薬誘導性の腸炎との相関性も報告されていますので13,14)、今後は腸内細菌に対するアプローチから毒性が予測できるようになることを期待しています。

ディスカッション

牧山それではディスカッションに移ります。まずは加藤先生からコメント等をお願いします。

加藤EBV評価も1つの効果予測のバイオマーカーになっていると思いますが、まだ実施頻度は低い印象です。砂川先生の施設では、ルーチンでMSIやEBVを評価されていますか。

砂川日常臨床では測定できていませんが、私たちが実施した臨床研究で評価していて、これから結果が出る段階です。胃癌患者に対するNivolumabの奏効割合は10%で、ちょうど胃癌患者の約9%がEBV胃癌といわれており、数値的には一致しています。これらのバイオマーカーが確立し日常臨床で活用できることを願っています。

牧山ATTRACTION-2試験でEBVは測定しているのでしょうか。情報をおもちの先生はいらっしゃいますか。

加藤測定していないと思います。

牧山それは残念ですね。ルーチンでのMSI検査に関してはいかがでしょうか。

加藤Pembrolizumab適応を判断するためのコンパニオン診断薬としてはMSI検査キットがすでに承認されています。

牧山今後は2次治療がPDになった際に、ルーチンでMSI検査を行うことも考えられますね。

門脇砂川先生、MSI-Highは今後明らかなバイオマーカーになると思われますが、問題はMSI-Highの方は、従来から指摘されているように術後補助化学療法でFU系薬を投与すると、有害作用が発現することだと思います。今後、MSI-Highの方に化学療法を検討する際、FU系薬の扱いはどうすべきだと思われますか。先生の見解があれば教えてください。

砂川TCGAのデータだけをみると、かなりimmatureで、MSI-High集団の予後が不良なのか良好なのかが不明です。ただ、その後に発表された米国と韓国からの切除可能検体を用いたデータをみると、やはりMSI-High集団は予後良好です。しかし、進行癌でも予後が良好なのかどうか、胃癌に関しては明らかではありません。先生がご指摘のように、早期に切除できた後、MSI-Highであれば何もしないほうがよいのかどうかはまだ明らかではありません。今後どうすべきかを考える必要があると思います。

加藤大腸癌におけるMSI-High症例は、文献上は5〜8%の頻度ですが、当院での検討では200例中1例程度です。また、文献での報告は切除標本が多いですが、再発例ではもっと割合は少なくなりますし、若年例ではさらに少なくなります。実際には、MSI-High症例の方は文献上での報告よりも少ないと考えられます。

門脇そうですね。まだ、頻度情報も明らかではありませんので、もう少しデータが欲しいところです。それなりに患者数がいれば、やはり考えていくべきだと思います。

牧山TMBに関して、胃癌では前向きに検討されているのでしょうか。

門脇今度、SCRUM-JapanでTMB-Highの治験が始まるので、その結果を待ちたいと思います。カットオフ値の設定なども、そこで決まると思います。

牧山砂川先生、MSI-HighだとTMBが多いかと思いますが、ほかにTMBが多い集団とはどのような集団が特定されていますでしょうか。

砂川現時点では、ほかには特定のマーカーはないと思います。

牧山なるほど、この分野に関しては、さらなる研究に期待がかかりますね。先生のDELIVER試験にも注目していきたいと思います。

このページのトップへ
MEDICAL SCIENCE PUBLICATIONS, Inc
Copyright © MEDICAL SCIENCE PUBLICATIONS, Inc. All Rights Reserved

GI cancer-net
消化器癌治療の広場