進行・再発消化器癌は治癒不能であり、比較的生命予後が短い。しかし、化学療法がある程度効くために、緩和医療を行いつつギリギリまで治療を行う場合が多い。
治療戦略で頭を悩ますのが癌性腹膜炎である。特に進行胃癌の場合、その経過中に多くの症例が腹膜転移を発症し、腹水貯留、腸閉塞、閉塞性黄疸、尿管閉塞など多彩な症状によってQOLが著しく低下する。
PSの低下した癌性腹膜炎症例の治療は非常に難しく、ケース・バイ・ケースでさまざまな症状緩和を行っているのが現状である。化学療法で症状緩和が非常に上手くいったケースは多数経験した。
経口摂取困難な症例に対しては、MTX+5-FU(MF)療法を行うことが多いが、5-FU単独療法や、5-FU低用量持続静注療法も、副作用が非常に軽微でありながら症状緩和に優れた効果を発揮する。タキサン系抗がん剤も安全に投与可能な薬剤であり、長期の症状コントロールが可能となった例がある。
胃管やイレウス管を留置し、在宅中心静脈栄養法(HPN)で生活している腸閉塞患者でも、流動物以上のものを摂取しなければ、腹部症状の悪化をきたさず数ヶ月間は在宅ケアを行うことも可能である。
腹満痛については、フェンタニルパッチや酢酸オクトレオチドのような薬剤の登場でコントロールが比較的容易となった。CVポートを造設し、HPNなど在宅ケアの体制を出来るだけ早期に導入し、在宅医と連携を取りながら可能な限り外来化学療法を継続するというスタイルは私の中では定着している。
腹水コントロールには難渋するケースが多いが、低アルブミン血症を悪化させないように腹水ろ過濃縮灌流を行ったり、症例によっては腹腔−静脈シャント(デンバーシャント)を造設することによってQOLの向上を図ることができる。抗がん剤の腹腔内投与についても、特にタキサン系抗がん剤は有望であり、今後、臨床試験でその有効性を明らかにしていければと考えている。
消化器癌の症状緩和にはIVRの技術が寄与するところが大きい。デンバーシャントや、経皮経食道胃管留置(PTEG)、消化管ステントや胆管系の内瘻化、これらを駆使することで、患者さんのQOLが少しでも改善すれば、満足度も非常に向上する。
消化器癌の患者さんが治癒しないのは現時点では仕方ない。腫瘍内科医として、化学療法による延命を追求するのは当然だが、緩和医療は決しておろそかに出来ない車の両輪である。対症療法であっても、患者さんが少しでも安心で満足のいく生活を送れるようにしていくことが、私のやり甲斐となっている。
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