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消化器外科医を志して 30年弱、 胃や大腸の進行癌患者さんに対して、 原発巣の切除手術を当たり前のように勧めてきた。
卒後1年目、60歳代の女性の胃幽門部の癌患者さんの胃切除に加わった。 No. 7、 8リンパ節が累々と腫大し、組織学的にも転移陽性であった。リンパ節郭清は施行したものの、組織学的な癌遺残は確実であると思われた。その後、毎年年賀状をいただいていたが、 再発なく術後20年以上元気で天寿を全うされた。
9年前、70歳代の女性の上行結腸癌患者さんの右半結腸切除を施行した。肝転移は認められなかったが、漿膜面に癌の浸潤がみられ、周囲腹膜に複数個転移病変があり、組織学的にも転移が確認された。再発は確実と思われたが、80歳になられた現在も再発症状なくお元気である。お2人とも術後しばらくより、現在の基準からはmildな化学療法を受けられている。
30年前、京都府立医大から胃癌患者さんに対して、脾門部の“すだれ状郭清”を行った後に脾摘して脾門部を検索すると、外科医が“郭清した”領域内に顕微鏡的なリンパ節の遺残が多数確認されたという論文が報告されていた。私が学会で耳にする“適正な手術”は、ある時期は“拡大手術”へ、ある時期は“患者に優しい低侵襲手術”などへ、時代とともに揺れてきた。
私も手術手技の向上によって、局所の根治性を高めることに努力してきたつもりであるが、13年前に東海大学へ移り、多数の大腸癌患者さんの治療に携わるようになると、私達が評価した手術の完全性が、患者の予後に結びつかない場合がきわめて多数あることを実感してきた。
最近直腸癌の側方リンパ節郭清の意義に関して、12施設から 1,977例の集計結果が報告され、リンパ節転移を有するstage III症例では郭清の効果は認められなかったが、リンパ節転移のみられないstage II症例で生存率改善効果が認められている。この結果は何を示唆しているのであろうか。
大腸癌患者さんの流血中に放出されている癌細胞を RT-PCR法を用いて検索すると、壁深達度がT1(sm層)である早期癌症例において末梢血中の検出率は25%にのぼり、大腸癌においては早期のうちから癌細胞あるいは癌細胞の一部が全身に到達していることが明らかになった(Ann Surg Oncol 2007:14:1092)。実際 壁深達度がT1症例の肝転移、肺転移を経験し、驚かれた先生は少なくないものと思う。
大腸癌には従来私達が考えてきた以上に、早期の段階から全身病になっている症例がある。手術は局所療法に過ぎないことをいつも忘れず、患者さん個々人の病態に合った個別化集学的治療法が、 21世紀に目指すべき癌治療の1つの方向性と信じている。
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