(1)膵臓外科手術は増加している
 最近、膵癌や腫瘍性膵嚢胞といった膵疾患の手術が増えている。 平成16年度の厚生労働省人口動態調査では膵癌による死亡が第5位と、癌死亡の上位になっている。和歌山県立医科大学第2外科の膵臓手術の年間手術件数でも、昭和62年10例、平成13年21例、平成15年50例、平成18年60例と確実に増加している。
 膵臓手術のうち膵頭部癌などの膵頭部領域の癌に対する手術は膵頭十二指腸切除術で、消化器外科の中でも高難度に位置する手術であり、若手外科医の登竜門ともいうべき手術である。最近では、膵臓手術のhigh volume centerでこそ術死率が2〜3%になっているが、年間10例以下の一般病院ではいまだ8〜10%と高い術死率が問題になっている。また、high volume centerでも術後合併症が30〜60%に発生し、とくに膵液瘻は致死的な合併症に結びつくことがあり、周術期管理が難しく、担当医が多くの時間を取られる手術といえる。

(2)膵臓外科医の生活
 欧米では膵臓手術のセンター化が進んでいる。すなわち、“良い病院”が患者に選ばれる結果、特定の病院に膵臓外科の症例が集まっている。本邦でも全く同様の現象がみられ、膵臓手術は特定の病院で選ばれた外科医のみが行う時代になったといえる。したがって多くの患者を扱うhigh volume centerの膵臓外科医の日常は大変である。 
 和歌山医大第2外科では、2007年の上半期で膵臓外科手術を53例に行った。年間100例のペースである。われわれの生活は、朝7時から仕事を始めて、終わりは翌午前0時過ぎ。それが1週間続き、土曜日は朝から夕方まで病院で、日曜日も午前中は病棟に張りついている。まさに、生活のほとんどを大学病院で過ごしている。われわれの仕事に対するインセンティブは、まずは “患者のために”であり、自分のことは二の次である。
 しかし、肝胆膵外科手術は難度が高く、優れた技術を持つ職人(高度技術専門医)が必要となり、事実、日本肝胆膵外科学会では技術認定を行う方向性を示している。しかし、高度技術専門医が行っても経験の少ない外科医が行っても、現状では膵頭十二指腸切除術は保険診療の範囲内での治療であり、病院および外科医への報酬は変わらない。高度技術専門医にはdoctor’s feeを上乗せすることも必要ではなかろうか(報酬が仕事をするインセンティブになるようでは品格に欠ける?)。 

(3)なぜ外科医を目指す若者が減っているのか
 外科医、とくに高難度の手術を担当する肝胆膵外科医は下積み期間が長い。いつまで経っても手術助手のみで、術者として活躍できる機会に恵まれないことが多い。医療訴訟のリスクも高い。
 しかし、自らの手で難治癌を克服し、患者に恩恵を与えることができるのは外科医のみである。 本来、外科医こそが“King of the doctors”なのである。確かにきつい仕事かもしれないが、青年が高い山をめざす志は尊いものであり、そのような気力のある青年医師に対してわれわれは愛情をもって精一杯の指導を行っていかねばならない。




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