私は、消化器外科医として多くの手術に携わってきました。私が大学を卒業した1975年頃から比べると、医療をとりまくさまざまな点で大きく変化してきました。とくに医療に対する国民の眼は著しく変化しています。
最近では病院での医療安全に取り組んでおり、多くの問題がよせられてきます。この中で患者さんの不満が、コミュニケーション不足のため生ずることも多々あります。事前に少しばかり心くばりすることで防がれるものが殆どだと思います。
1例を紹介しますと、58歳男性でS状結腸癌に対し、S状結腸切除術を予定されました。担当外科医師は、本人、家族に手術前の診断名、放置した場合の予後、S状結腸切除術と腸吻合術が必要なこと、またその危険性を話します。患者は説明に納得し、手術を受けることに同意しました。
S状結腸切除と、腸吻合が行なわれ無事手術は終了しました。しかし運悪く経口摂取開始後、吻合部のleakageが生じ、ドレーンより便汁が排出され、ドレナージが不良のため再ドレナージ手術が必要となりました。再開腹して再ドレナージを行うとともに口側を人工肛門としたハルトマン手術が施行されました。
その後順調に軽快し、無事退院となったが、患者さん側から大きな不満が述べられました。回復までの時間が延びたこと、再手術が必要となったこと、手術前に人工肛門となると聞いていなかったのに人工肛門となったことへの不満で賠償補償せよとの要求がありました。
担当外科医は術前に縫合不全などの合併症はありうるなどの、説明はしていましたが、人工肛門が造設される可能性までは話していなかったため患者さんから、担当医に大きな不満が述べられました。術前にありうることを充分に話しておけば避けられたであろうトラブルであります。事前に大腸の手術では感染が生じやすいことや再手術がありうることを納得してもらい、最悪の事態について話しておけば、このようなトラブルは防げた可能性があります。
医療の現場では、多くの予想外のことや、悪い結果が生じてしまうことがあります。医療は結果を保証できないとよく言われますが、医療において100%はあり得ず、常にそのことを念頭においてインフォームドコンセントを行う必要があります。結果が悪くなってから、追いかけの説明では、納得してもらうことが難しいこともあります。
医療は人間相手のものであるがゆえ、機械のような結果を求めることができず、何が起こるか分からないとの認識を常に持って、慎重に行動することが必要であると感じている毎日です。
(事例は実例ではありません。)
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