産業医科大学病院は、特定機能病院として、また地域基幹病院として古くから地域の癌治療の中心的役割を担ってきました。2005年4月、これまでの外来点滴センターを改編して化学療法センターを開設、DPC導入をきっかけに整備が進められたオーダリングシステム、クリニカルパスをセンター運営に生かし、また院内では他診療科との連携をスムーズに行い、質の高い医療を提供しています。
開設から1年を経た現在の稼動状況について、化学療法センター部長である塚田順一先生、消化器・内分泌外科副診療科長の永田直幹先生からお話しを伺いました。
Q. 化学療法センター開設の経緯についてお教えください。
A: 当院には、これまで「外来点滴センター」と呼ばれる、診療科ごとに利用される外来化学療法施設がありました。しかし、そこには専任医師が不在であったため安全面の確保が懸念されるなどの課題がありました。また今後の利用者数の増加なども踏まえ、外来のみの利用であれば各診療科の壁を取り払った横断的・集約的なシステムに則った運営を行えば、より効率的かつ質のよい診療につながると考えたのです。こうして、院内の賛同を得て、「化学療法センター」として再スタートしました。 |
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センター内治療室。現在、ベッド数は9床、リクライニングチェア3床。治療が長時間に及ぶ、眠くなるなどの理由から、患者さんに好評なのは意外にもリクライニングチェアではなく、ベッドであるという。ポータブルTVを用意しているが要望はあまりなく、常にリラックスできる音楽をかけている。 |
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Q. 癌治療では横断的な診療の重要性が叫ばれていますが、一方で大学病院のような縦割り組織では、横の連携へ移行するのが難しいともいわれています。
A: 診療科ごとに診療の特色もありますので、簡単なことではないと思います。当院でも完璧に移行しているとはいえませんが、経験を重ねることにより、さらに改善されていくと考えています。診療科ごとに臓器に特化した診療を行うことを「縦糸」とすると、化学療法センターでの抗癌剤による外来化学療法に特化した管理を「横糸」として、各診療科主治医とセンターの専任医師でコミュニケーションをとりながら対応しています。また、当院の特徴として化学療法部でカルテを作成することができますので、2〜3ヵ月に1回のペースで、センター専任医師、臓器別診療科医師、放射線治療科医師、看護師、薬剤師などが集まりカンファレンスを開催し、個々の症例の治療方針について全員で話し合いをします。
Q. センター専任医師の構成についてお教えください。
A: センター部長の他に、外科系医師2名と腫瘍内科医師1名の計4名で構成され、最低2名の専任医師がセンター内の診察室に常駐しています。
施設見取り図
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看護師席から全体が見渡せるようレイアウトされている。また、治療中でも使用可能な広めの専用トイレもセンター内に設置されている |
Q. 治療の流れを教えてください。
A: まず、化学療法が治療に組み込まれることになった時点で、各診療科主治医が、電子カルテの化学療法センター紹介用テンプレートに診療情報を記入し、センター専任医師に患者さんを院内紹介します。患者さんは化学療法センターを受診して、副作用、治療日の流れ、治療開始後の自己管理などについて説明を受けます。投与当日は、患者さんは問診、採血後に診察を受け、投与の可否を決定して調剤のオーダリングをします(図1)。このとき診療科によっては、センター専任医師が当日の患者さんの検査データから化学療法の実施の可否を決定することも可能です。また、治療中にショック等の副作用が発生した場合にはセンター専任医師が対応します。現在、26診療科のうち10診療科が化学療法センターを利用していますが、2006年2月の利用患者数は316名で、ベッド数(12床)から考えると常時フル稼働している状態です。
図1.投与日の診察・治療の流れ
化学療法センター専任医師と診療科主治医との間で話し合い、「どちら」が「何に」対応するかを事前に決定する。