消化器癌治療の現場から 〜外来化学療法編〜 | 消化器癌への様々な取り組みをご紹介します。
第2回 産業医科大学病院化学療法センター(取材日:2006年3月20日)
 Interviewer: 瀧内比呂也先生(大阪医科大学)

Q. 特定機能病院も「地域がん診療連携拠点病院」構想の中に組み込まれるということで、近隣医療機関との連携についての取り組みが問われています。それらを含めました今後の抱負をお聞かせください。

A: すでに近隣の医療機関には当院のレジメをお渡ししています。場合によっては投薬をお願いすることもありますし、副作用やポート管理の面からのご協力もお願いしています。
癌患者数は年々増加しており、今後は外来化学療法を大学病院や基幹病院だけで行うのではなく、地域のホームドクターに普及しなければならない時代が来ると考えています。したがって、近隣のみならず北九州全体までも視野に入れた他医療機関との連携、ネットワーク形成を推進し、各医療機関が規模、グレードに応じた何らかの癌治療を提供できるようにしていく必要があります。また、それこそが理想的な癌治療の姿ではないかと思っています。そのためにも、当院が中心になり近隣の医療機関に向けて情報を発信し、協力して治療を行っていけるように努力すべきと考えています。

センター部長からのコメント 塚田順一先生

まずはリスクマネジメントをしっかりと行うことです。外来化学療法とは、これまで入院で実施していた治療を外来で行うということですから、医師からは「目が届きにくい」と感じる面があります。そのため、ダブル、トリプル・チェックでレジメの管理を行い、できる限りヒューマンエラーを起こさないよう留意する必要がありますし、センター内に専用の調剤室を設置するなどハード面での整備も重要になってきます。また、患者さんへのアンケート等によると、入院から外来に切り替えたことによる患者さんのQOLの向上は実現されているものの、入院時にはみられなかった新たな問題、例えば治療の待ち時間の長さなどによる体調悪化、帰宅後の副作用なども発生しています。帰宅後のフォローや緊急時の対応などについても病院全体でoncology emergencyとして捉え、病院内で統一された共通の見解、対策をもつことが重要になってきます。

消化器・内分泌外科医からのコメント 永田直幹先生

診療科の壁を越えた横断的な取り組み、と一言でいっても、実際には最初からうまくいくとは限りません。あせらずに進めることが大切です。当院もまだやっと少しずつ山を登りはじめたところという段階ですが、それでも各診療科主治医とセンター専任医師との信頼関係が築け、横割りと縦割りの比率が半々で格子模様を作っている、ちょうどバランスのとれた状態に近づきつつあります。
また、患者さんは外来での治療に安心感をもって初めてQOLの高さを実感できるわけですから、安心感を与えてあげるためのあらゆる努力をするべきでしょう。専任のスタッフは、患者さんが外来化学療法について理解を深められるよう小冊子を作成したり、治療についてじっくりと説明をするなど、治療以外のサポートを積極的に行うことも大切です。


患者説明用資料
化学療法センター専任医師・看護師・薬剤師で協力して作成にあたった、治療内容・手順や、副作用などに関する説明用小冊子

インタビュアーからのコメント 瀧内先生

産業医科大学病院外来化学療法センターは、開設から約1年が経過し、レジメの登録やスケジュール管理、化学療法センター独自のカルテ作成など、組織としてのリスクマネジメントや癌治療の効率化が順調に機能していることが今回の訪問でよくわかりました。大学病院という縦割り組織のなかで、化学療法センターを中心に、各診療科横断的な癌治療のチーム作りが根付きはじめていることもお話を伺っているなかで伝わってきました。現在わが国が推し進めているがん対策の1つに「地域がん診療拠点病院」があり、病病連携や病診連携といった地域連携の充実が求められています。今回訪問した産業医科大学病院では、塚田センター長をはじめ外来化学療法センターの関係者は、院内連携のみならず地域連携にも積極的に取り組んでおられました。この産業医科大学病院が良い実例だと思いますが、今後地域がん診療拠点病院の外来化学療法センターが、地域連携を含めたこれからの癌医療の中核として、ますますその存在感を大きくしていくことは間違いないだろうと思います。


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