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消化器癌におけるsentinel node navigation surgery(SNNS)は現在臨床試験段階であり、SNNSが理論的根拠をもって臨床応用されるためには、適応症例の検討、手技の標準化、術前・術中診断の正確性が必須である。
今回、鹿児島大学第一外科のグループからの報告(S17-5)では、胃癌症例に対してRI法によるSNNSを施行し、リンパ節の微小転移診断を行い、SNNSの臨床応用の妥当性について検討されていた。1999年2月〜2003年9月の間に、術前診断clinical
T1-2の胃癌切除患者117例を対象とした。その内訳は、cT1N0:95例、cT2N0:13例、cT1-2N(+):9例である。術前日に、99mTc-Tin
colloidを内視鏡下に腫瘍周囲の粘膜下層へ注入した。術中同定されたhot nodeは、HEおよびCytokeratin(AE1/AE)染色を行なった。また、術後、すべての摘出リンパ節をmappingし、HEとCK染色を行なった。
その結果、cT1N0症例では、同定率94%、リンパ節転移9例(微小転移3例)で転移検出感度100%、正診率100%であった。cT2N0症例では、同定率92%、リンパ節転移7例で、転移検出感度71%、正診率83%。CT1-2
N(+)症例では、同定率91%、リンパ節転移9例で、転移検出感度63%、正診率63%であった。これらのことより、早期胃癌に対してはSNNSの臨床応用としてリンパ節郭清の省略が可能と考えられ、鏡視下局所切除もしくはEMRとの併用により、低侵襲、縮小手術が可能であるとの結論であった。
もうひとつ、センチネルリンパ節郭清について、慶應義塾大学のグループから報告があった(S17-7)。1999年1月〜2003年9月の間に、消化器癌切除郭清を施行した389例(食道癌:70例、胃癌:248例、大腸癌:71例)を対象に、テクネシウムスズコロイドをトレーサーとしてγプローブでSNを同定した後、標準的切除郭清術を施行した。その結果、食道癌におけるSN同定率:92%、平均SN個数:4.9個、転移検出感度:87%、正診率:93%であった。また、胃癌では、SN同定率:97%、平均SN個数:4.1個、転移検出感度:92%、正診率:99%、大腸癌では、SN同定率:93%、平均SN個数:3.9個、転移検出感度:81%、正診率:92%であった。偽陰性例は画像上リンパ節転移が示唆される進行例であった。SN術中迅速診断による微小リンパ節転移検出感度は、術中凍結標本HE染色(75%)に対して、免疫染色(90%)、RT-PCR(100%)の併用による上昇を認めた。
これらの結果から、臨床診断にてリンパ節転移陰性の消化器癌における微小リンパ節転移は、SN生検による術中迅速診断が可能である、と結論付けられていた。今後、術中リンパ節転移診断精度のさらなる向上、内視鏡下手術との併用が課題である。
自律神経温存側方リンパ節郭清については、久留米大学のグループから報告があった(S17-6)。日本では下部直腸癌に対して内腸骨動脈領域リンパ節郭清が1970年から施行されてきた。一方、側方リンパ節郭清の際、直腸間膜の外節に介在する下腹神経、骨盤内臓神経が交流する骨盤神経叢の切除により自律神経障害が生じる場合がある。久留米大学では1975年から自律神経を温存したまま側方リンパ節郭清を行う術式が施行され、今回、その妥当性を、遠隔成績および術後排尿障害の面から検討した。1975年から2001年までの側方郭清を施行した下部直腸癌418例を対象としていた。両側側方リンパ節郭清:319例(両側骨盤神経叢温存:75例、片側骨盤神経叢温存:31例、非温存:213例)、片側側方リンパ節郭清:99例(片側骨盤神経叢温存:27例、非温存:72例)であった。
生存率、健存率いずれも神経温存群が高率であった。Dukes C症例や側方リンパ節転移例に層別しても、同様の傾向が認められた。特に、側方リンパ節転移があっても2個以内であれば生存率は良好で、温存群と非温存群に差異は認められなかった。治癒切除後の再発率は、神経温存群27%と、非温存群の41%に比べ、有意に低かった。また、両側郭清の非温存群では、自己導尿を余儀なくされる症例が認められたが、温存群には自己導尿例はなく、残尿量が50mL以下となる日数は、非温存群に比べ有意に短かった。
以上のことから、進行下部直腸癌に対する標準術式として、自律神経温存側方リンパ節郭清術は妥当であると結論付けられていた。
リンパ節郭清の縮小は上部消化管においては犠牲臓器の軽減に、下部直腸においては術後排尿障害の予防につながる。SNNSはリンパ流を明らかにすることにより当該症例のリンパ節転移の有無を術中に判断し、縮小手術あるいは局所切除の適応を拡大することを理論的に可能にしようとしている。下部直腸癌における骨盤神経叢温存手術においては、温存群の方がむしろ再発制御率が良好であり術後排尿障害を軽減したことが示された。SM胃癌のリンパ節転移は15%程度であり、逆に言えば85%が局所切除可能である。この群全てを予見することは直ちには不可能であっても、例えこのうちの半数の症例がEMR、腹腔鏡下局所切除で治癒可能となれば、そのQOLに与える恩恵は計り知れないものがある。しかし早期胃癌については切除という、ほぼ100%治療可能な方法が存在しており、乳癌のSNNSのように再発後のsalvage手術は事実上極めて困難である。このような背景で局所切除の適応拡大を図るには、相当な正診率(特にfalse
negative caseの完全な排除)と十分なinformed consentが必要とされよう。 |
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