OPTIMOX試験――L-OHPによる神経障害を回避するためのregimen
OPTIMOX試験のお話しが出ましたので、次にOPTIMOX試験についてお聞かせください。この試験では進行結腸直腸癌に対して6サイクルのFOLFOX 7の後、L-OHPを休止して12サイクルのsLV5FU2を施行し、それから6サイクルのFOLFOX 7を再開する治療を通常のFOLFOX 4と比較しています(Tournigand et al.: J Clin Oncol, 24: 394-400, 2006)。FOLFOX 7の治療サイクルをこのように決めた理由は何ですか。
OPTIMOX 1でFOLFOX 7を6サイクルとしたのは、それが一般的に神経障害が出始める頃だからです。
L-OHPによる神経障害は蓄積性の毒性ですよね。second line治療を比較した最初の試験では、first lineにおけるFOLFOX 6を中央値で12サイクル投与しています。
中央値ですから、すべての患者さんでそれほど投与できたわけではありません。また、L-OHPの毒性の現れ方は患者さんによって大きく異なります。なかには何の神経毒性もなしにL-OHPを20サイクル投与できた患者さんもいます。FOLFOX 7はL-OHPが増量されていますので、投与サイクルは少ないとしても、dose intensityを同等にする狙いがありました。
“Reintroduction”――プロトコル非遵守の問題
12サイクルのsLV5FU2、すなわちL-OHPを6ヵ月間休止した後、FOLFOX 7でL-OHPを再開するというプロトコルの実施には問題もあったようですね。
もちろん神経障害やその他の毒性によりL-OHPを再開できなかった症例もあります。また、病変の進行が速かったり、死亡してしまったために再開できなかった症例もあります。しかし、問題なのは再開できたのに再開しなかった症例があるということです。試験に参加した医師のなかにはプロトコルを守らなかった人がいました。
その人たちはなぜL-OHPを再開しなかったのでしょう。
L-OHPを休止後再開する意義に疑いを持っていたか、second line治療としてFOLFIRI、すなわちCPT-11を投与したほうがよいと考えたのかもしれません。6サイクルのFOLFOX 7を実施して、その後のsLV5FU2実施中に進行があれば、L-OHPを再開するよりCPT-11に変更したくなるのは想像に難くありません。
OPTIMOX 2ではすべての化学療法を一時休止
OPTIMOX 1で示唆されたL-OHPの“reintroduction”の有用性をさらに一歩進めて確認するために、先生たちはOPTIMOX 2(ASCO2004 #3554)を実施されています。OPTIMOX 2ではどのような検討をされているのでしょうか。
OPTIMOX 2ではOPTIMOX 1で検討したreintroductionのパターンに加え、完全なるstop-and-goを検討しています。すなわち、6サイクルのFOLFOX 7施行後、sLV5FU2で維持してからFOLFOX 7を再開する群と、すべての化学療法を一時休止してからFOLFOX 7を再開する群とを比較しています。
化学療法を完全に休止してしまうようなプロトコルを実施することについて、試験対象の患者さんにはどのように説明されたのですか。
患者さんの病変はもう根治が期待できない状態であることをお話しなければなりません。つまり、私たちはより慢性的な病変と向き合っているのであって、quality of life(QOL)を良好に維持することにも力を注がなければなりません。そのためには化学療法を必要とするときもあるでしょうし、必要としないときもあるでしょう。QOLという点からは、何ヵ月も2週間毎に治療するよりも、より短い期間、治療することの有益性を検討する意義があるのです。
L-OHPの神経毒性に対する支持療法
L-OHPの毒性を軽減する手段として、ほかに何かされていますか。
はい。L-OHPの静注前および後にカルシウムとマグネシウムを1gずつ静注すると、L-OHPによる神経障害が軽減できることが後ろ向きコホート研究で報告されています(Gamelin et al.: Clin Cancer Res, 10: 4055-4061, 2004)。現在、私たちの実地臨床ではこれを実施しています。
臨床試験では実施していないのですか。
特に指定していません。ただ、おそらくOPTIMOX試験の最後のほうではこの予防投与を受けていた患者さんもいると思います。
欧米ではスタンダードな方法になっているのでしょうか。
Gamelinらの報告は161例と、そう多数例での検討ではありませんので、その是非の判断は施設によると思います。
OPTIMOX 3――bevacizumabとerlotinibを加えるDREAM試験
なお、現在、OPTIMOX 3も開始されているとお聞きしています。OPTIMOX 3では分子標的製剤も組み入れて検討されているそうですが、その具体的内容を教えていただけますか。
OPTIMOX 3はまたの名をDREAM試験といい、mFOLFOX 7+bevacizumab±erlotinibまたはXELOX 2+bevacizumab±erlotinibを6サイクル投与し、それぞれmFOLFOX 7とXELOX 2だけをいったん休止して維持した後、またこれらを再開するというプロトコルで実施しています。化学療法についてはstop-and-goでいったん完全に休止し、その間をbevacizumab±erlotinibで維持する試みです。
この試験に関しては、一部の症例で忍容性があまりよくないことが最近わかりました。おそらく問題はXELOX+bevacizumab+erlotinibの忍容性です。XELOXの主要な有害事象として下痢があり、erlotinibでも同じく下痢がありまして、消化器毒性が問題となってきます。解析を進めてみないとわかりませんが、場合によってはプロトコルの修正も考慮しなければなりません。
術後補助療法ではAVANT試験がFOLFOX 4±bevacizumabとXELOX+bevacizumabを比較していて、やはり安全性に懸念が生じたことから、登録が一次中断されましたね。
そうですね。ただ、XELOX+bevacizumabにはそれほど問題はないと思います。進行結腸直腸癌におけるXELOX+bevacizumabのデータでは忍容性は良好でした。XELOX+bevacizumabのその他の試験は継続されていますし、AVANT試験は慎重を期すために一時的に中断されただけだと思います。
経口薬capecitabineの利用価値
一方、米国ではcapecitabineを使用せずに、単純にmFOLFOX 6とmFOLFOX 6+bevacizumabを比較するNSABP C-08試験が実施されています。欧州ではcapecitabineの位置づけはどのように考えられていますか。
進行結腸直腸癌の患者さんや静注療法を好まない患者さんに使われています。また、禁忌のためにCPT-11やL-OHPの投与ができない患者さんにも使われています。つまり、LV/5-FU静注療法だけであれば、capecitabine単独療法は有効性が同等というエビデンスがありますので、代わりにcapecitabineを試してみるのも1つの方法ではあります。ただし、一部の患者さんにとって経口薬の選択肢は重要ですが、それはごくわずかな割合に過ぎないと思います。ちなみに、現在私が出向しているカナダでは、capecitabineが高額であるという問題もあります。
一義的にはコストにかかわらず最良の治療を見つけることが重要ですが、その次には現実的問題にも直面しなければなりませんね。
そういう意味ではFOLFOXにしても、分子標的製剤を加える新たなregimenにしても、例えば6ヵ月も投与する必要があるのか、3ヵ月でもよいのではないか、というようなことを考えるのもまた1つの課題ではないかと思います。
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