背景
大腸癌の転移臓器で最も頻度の高いのが肝臓であるが、そのうち切除の適応となるのは15-20%の患者である。切除可能な肝転移を有する大腸癌に対しては、周術期のFOLFOX4が標準治療とされている1)。本試験では、治癒切除率の向上ならびにOxaliplatin (L-OHP) による重篤な神経障害のリスクを回避するため、FOLFOX後にFOLFIRIを行う逐次投与 (sequential therapy) を検討した。
対象と方法
転移巣が切除された、もしくは切除可能な大腸癌患者284例をFOLFOX4群 (12サイクル、L-OHP 85mg/m2) またはFOLFOX7-FOLFIRI逐次投与群 (各6サイクル、L-OHP 130mg/m2、Irinotecan [CPT-11] 180mg/m2) に無作為に割付けた (図1)。補助化学療法は術後または術前後に実施した。
層別因子は化学療法の施行時期 (術前 vs. 術後)、切除単独 vs. ラジオ波焼灼±切除、Blumgartの予後因子2) (0-1 vs. 2-3 vs. 4-5) とした (表1)。転移は単一臓器としたが、個数には制限を設けなかった。主要評価項目はDFS (disease-free survival) とした。
結果
2004年5月から2010年6月までに284例が無作為に割付けられた (各群142例)。両群の患者背景は同様で、主要な転移部位は肝臓であった。転移個数が1個であったのはFOLFOX4群で51%、逐次投与群では52%であった。術前・術後に化学療法が施行された症例のうち、R0切除が行われたのはFOLFOX4群で85例中61例 (71.8%)、逐次投与群では83例中61例 (73.5%) に達した。
Grade 3の神経障害はFOLFOX4群で24%、逐次投与群では16%に認められた。 Grade 3/4の血小板数減少および消化器毒性 (悪心、下痢) は、FOLFOX7-FOLFIRI群でより多くみられた。
主要評価項目であるDFSの中央値はFOLFOX4群で22.4ヵ月、逐次投与群では23.0ヵ月 (HR: 0.97, 95%CI: 0.72-1.31, p=0.856) であり、両群に有意差はみられなかった (図2)。OSは中央値に到達しなかった。なお、術前・術後に化学療法が施行された症例のDFSの中央値が23.0ヵ月であったのに対し、術後のみ施行された症例では39.9ヵ月と差異がみられたが、両群の同時性転移の割合が大きく異なっていたことが原因と考えられた (図3)。
結論
切除可能な肝転移を有する大腸癌患者において、FOLFOX7とFOLFIRIによる逐次投与は、標準治療であるFOLFOX4に対する優越性を証明できなかった。
コメント
2007年 米国臨床腫瘍学会年次集会では、切除可能な肝転移を有する大腸癌に対してFOLFOX4を術前および術後に施行すると、手術単独と比較して3年DFSが8.1%向上することが報告された3)。 本試験は、同様の症例にFOLFOX7とFOLFIRIを逐次投与し、L-OHPの神経毒性軽減と補助化学療法の効果増強を図ったものである。FOLFOX4群、FOLFOX7-FOLFIRI逐次投与群ともに単発の肝転移症例がおよそ半数を占めているが、これはEORTC Intergroup trial 40983試験と同じである。L-OHPとCPT-11に交叉耐性がないことから期待された補助化学療法の効果増強は認められなかった。また、神経毒性の軽減は得られず、血小板減少と悪心・嘔吐、下痢は逐次投与群で高率であった。サブグループ解析の結果、術前・術後に化学療法を施行した群よりも術後にのみ施行した群のDFSとOSが良好であったが、これは術前・術後群に同時性肝転移症例が多かったためと述べられていた。以上より、切除可能な肝転移を有する大腸癌に対し補助化学療法を行うとしたら、現在推奨されるのはFOLFOXである。
(レポート:岩本 慈能 監修・コメント:大村 健二)
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