演題速報レポート

背景

 Gemcitabine + Cisplatin (GC) 療法は、進行胆道癌に対する標準療法である。一方、これまでの臨床試験から、Gemcitabine + S-1 (GS) 療法とS-1単独療法は、進行胆道癌症例に対して効果の期待できる治療法と考えられる。この臨床試験の目的は、この2つの治療法の効果と安全性を評価し、どちらが第III相試験のtest armとして有望であるかを検証することである。

方法

 化学療法治療歴のない切除不能・再発胆道癌 (胆嚢癌、肝内胆管癌、肝外胆管癌、ファーター乳頭部癌) であり、ECOG PS 0-1、十分な臓器機能が保たれている症例を以下の2群に無作為に割り付けた (図1)。

 主要評価項目は1年OS (overall survival) であり、必要症例数は一方のレジメンのOSを30%、他方のレジメンを40%以上と仮定し、検出力85%より98例とした。副次評価項目はPFS (progression-free survival)、RR (response rate)、有害事象などである。

結果

 2009年2月から2010年4月までの間に101例 (胆嚢癌38例、肝内胆管癌35例、肝外胆管癌20例、ファーター乳頭部癌8例) がGS群 (51例) およびS-1群 (50例) に無作為割付けされた。
 主要評価項目である1年OSはGS群52.9%、S-1群は40.0%であった。また、OSの中央値はそれぞれ12.5ヵ月、9.0ヵ月であり (HR=0.86, 95%CI: 0.54-1.36, p=0.52: 図2)、PFSの中央値は7.1ヵ月、4.2ヵ月であった (HR=0.44, 95%CI: 0.29-0.67, p<0.0001)。


図2

 Grade 3/4の血液毒性はGS群で高頻度であり、主として好中球減少 (GS群: 60.8%、S-1群: 4.0%)、白血球減少 (29.4%、2.0%) 、貧血 (11.8%、4.0%) 、血小板減少 (11.8%、4.0%) であった。Grade 3/4の非血液毒性は両群ともに低頻度で回復可能であった。

結語

 1年OSはS-1群に比べGS群で高値であった。この結果より、GS療法が今後実施されるGC療法との第III相試験のtest armに設定されることになる。

コメント

 胆道癌の発症頻度は比較的低いが、再発も含めて切除できない症例にしばしば遭遇する。一方、近年まで進行胆道癌に対する標準的な化学療法は確立されていなかった。2009年 米国臨床腫瘍学会年次集会において、進行あるいは転移を有する胆道癌410例に対するGemcitabine単独療法とGemcitabine + Cisplatin (GC) 療法とのRCTの結果が報告された1)。その結果、GC療法ではGemcitabine単独と比較してPFS、OSともに有意に延長した。このRCTは、これまでに進行胆道癌を対象として行われた最も大規模で質の高い臨床試験であり、本結果より現在の進行胆道癌に対する標準的治療はGC療法といえる。
 その一方で、S-1を用いたレジメンも胆道癌に有効であることが報告された2, 3)。したがって、これらレジメンとGC療法とを比較するRCTの施行を考慮する必要がある。本研究は、GC療法と対決する挑戦者決定戦と考えてよい。ここで示されたGS療法のOSとPFSは、2009年 米国臨床腫瘍学会年次集会で報告されたGC療法のOSおよびPFSとほぼ同等である。GS療法は、GC療法に対する挑戦権を堂々と得たことになる。症例集積が困難な疾患単位ではあるが、我が国主導のエビデンスを示すためにも、質の高いGC vs. GSのRCTの実施が期待される。

(レポート:岩本 慈能 監修・コメント:大村 健二)

Reference
  1. 1) Juan W. Valle, et al.: 2009 Annual Meeting of the American Society of Clinical Oncology® abst #4503 [学会レポート]
  2. 2) Sasaki T, et al.: Cancer Chemother Pharmacol. 65(6): 1101-1107, 2010
  3. 3) Furuse J, et al.: Cancer Chemother Pharmacol. 62(5): 849-855, 2008
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