背景と目的
切除不能進行・再発大腸癌に対するS-1とL-OHPの併用療法 (SOX) は、有効性と安全性が良好であることが日本と韓国の臨床試験で報告されている1,2)。
今回、切除不能進行・再発大腸癌の1st-lineにおけるSOX + Bevacizumab (BV) 療法のmFOLFOX6 + BV療法に対する非劣性が第III相試験で比較検討された。
対象と方法
対象は、20~80歳未満、PS 0/1の切除不能進行・再発大腸癌に対する初回治療例である。術後補助化学療法としてL-OHPが投与されている患者は除外した。
対象をmFOLFOX6 + BV群とSOX + BV群 (S-1: 80, 100, 120mg/body/day, day1-14内服、L-OHP: 130mg/m2 day1 iv、BV: 7.5mg/kg day1 iv q3w) に無作為に割り付けた (割付調整因子 : 術後補助化学療法の有無、施設)。
増悪 (PD) の判断は、標的病変における、治療前に比し長径和が20%以上増大した場合の画像上のPDと、非標的病変の悪化もしくは新病変の出現のいずれか早い方をもってPD判断日とし (図1)、参考としてRECIST基準によるPDを増悪確認日とした。
図1
主要評価項目はPFS、副次評価項目は奏効率、OS (overall survival)、R0切除率、有害事象などである。
本試験ではSOX + BV群のmFOLFOX6 + BV群に対するPFSにおける非劣性を検証した。期待されるHRの非劣性マージンを1.33 (両群とも10ヵ月)、両側α5%、検出力80%として、500例の登録が必要と算定した。
結果
512例が登録され、2群間の患者背景に偏りはなかった (表1)。
表1
PFSは中央値がmFOLFOX6 + BV群11.5ヵ月、SOX + BV群11.7ヵ月 (HR=1.043, 95% CI: 0.860-1.266, p=0.0139; non-inferiority) であり、非劣性マージンを下回った。
RECIST基準に基づくPFSは、中央値が両群ともに10.2ヵ月 (HR=1.021, 95% CI: 0.847-1.232)、奏効率はmFOLFOX6 + BV群が62.7%、SOX + BV群が61.5% (p=0.8026) であった。
観察期間中央値23.4ヵ月の時点で、OS中央値はmFOLFOX6 + BV群が30.9ヵ月、SOX + BV群が29.6ヵ月と同等であった (HR=1.052, 95% CI: 0.805-1.376)。
2nd-lineへの移行率は、mFOLFOX6 + BV群が76.4%、SOX + BV群が80.5%であった。
表2
R0切除率は、mFOLFOX6 + BV群が8.6%、SOX + BV群が9.4%と有意差はなかった(p=0.7678)。
サブグループ解析では、肺転移症例でSOX + BV群が良好な傾向がみられた (p=0.0419)。
用量強度中央値は、mFOLFOX6 + BV群では5-FU bolusが75.0%、5-FU ivが79.0%、L-OHPが62.7%、BVが83.4%であり、SOX + BV群はS-1が79.9%、L-OHPが75.5%、BVが88.5%であった。
Grade 3以上の血液毒性は、好中球減少がmFOLFOX6 + BV群の33.7%に対し、SOX + BV群は8.8%、血小板減少は0.8%に対して3.6%であり、非血液毒性は表3の通りであった。
結論
切除不能進行・再発大腸癌の1st-lineにおけるSOX + BV療法は、mFOLFOX6 + BV療法に対して、PFSにおいて非劣性を示した。また、安全性プロファイルも良好であった。
コメント
大腸癌初回治療症例の標準治療であるFOLFOX + BV療法に対するSOX + BV療法の非劣性が検証された。これまで、5-FU/LV療法に対してCapecitabine、UFT/UZE、そしてFOLFOXに対するXELOX (Capecitabine/L-OHP) の非劣性が証明されており、LV5FU2の経口フッ化ピリミジン系薬への置き換えは、臨床経験上ごく当然の結果に感じるが、エビデンスが示され、今後実臨床での選択肢が増えることはありがたい。
本邦では、すでにXELOXが承認されており、3週サイクルの治療には慣れている状況でもある。L-OHP 130mg投与による血管炎、血管痛の問題や、服薬アドヒアランスといった問題の解決策が準備されていたことも、本臨床試験が実施しやすくなった理由の1つかもしれない。
SOX療法は第II相試験において、血小板数減少の有害事象が大きく問題になっていたが、これに対しても投与延長等の工夫で乗り越えられていた。消化管穿孔が認められたことから、試験途中で消化管狭窄、腹膜播種例を除くよう適応基準が変更されたが、それ以降は消化管穿孔の発症は認めていない。
本試験で質問が多かったのは、baseline PDを採用している点であった。RECIST PDでの解析もされており、結果は同様で、結論に影響することはない。未熟なデータではあるものの、生存期間が30ヵ月に及ぶというデータであることに関しては、実臨床レベルではbaseline PDの考え方は適切なのだろう。
(レポート:中島 貴子 監修・コメント:佐藤 温)
- Reference
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- 1) Yamada Y, et al.: Br J Cancer. 98(6): 1034-1038, 2008 [PubMed]
- 2) Hong YS, et al.: 2013 Gastrointestinal Cancers Symposium: abst #60