2010年 消化器癌シンポジウム 演題速報レポート 消化器癌治療の広場

2010年 消化器癌シンポジウム

演題レポート Presentations

Abstract #1
胃癌のセンチネルリンパ節マッピングの有用性に関する研究:
日本におけるプロスペクティブな多施設共同試験

Validation study of sentinel node mapping in gastric cancer: Prospective multicenter trial in Japan.

Yuko Kitagawa, et al.

胃癌手術の個別化への可能性を期待させるセンチネルコンセプトの証明

寺島 雅典 先生

 我が国で実施された胃癌に対するセンチネルリンパ節(SN)生検に関する、初めてのプロスペクティブな多施設共同臨床試験の報告である。
 既におおよその内容については、昨年の米国臨床腫瘍学会年次集会で報告されているが(Kitagawa Y, et al.: 2009年 米国臨床腫瘍学会年次集会, #4518)、今回さらに術中迅速診断の精度に関する解析が加えられていた。その結果、術中迅速診断では21%の症例が偽陰性(固定標本では転移陽性だが、迅速診断では転移陰性)と判定されてしまうことが判明した。しかし、偽陰性のリンパ節はすべてSNもしくはSNリンパ節を含むリンパ流域内のリンパ節であり、リンパ流域外のリンパ節には偽陰性を認めなかった。
 したがって、胃癌においてセンチネルコンセプトは成立するものの、実際の縮小手術にこれを応用する際には、SNリンパ節を含めたリンパ流域郭清が必須である。今後、この手法を用いた縮小手術の妥当性に関して臨床試験で検証することにより、早期胃癌に対する外科治療の個別化が確立されるものと思われる。

 
背景

 センチネルリンパ節(SN)の概念は、悪性黒色腫と乳癌の手術ステージ分類に革命をもたらした。SNマッピングは、個々の症例の情報を得る重要な手段であり、早期胃癌においても、外科手技を大きく変える可能性が期待される。そこで、日本センチネルリンパ節ナビゲーション外科研究会(The Japan Society of Sentinel Node Navigation Surgery; JSNNS)は、早期胃癌におけるSNマッピングの有用性を評価するため、プロスペクティブな多施設共同試験を行った。

対象と方法

 2004年8月〜2008年3月に、JSNNS参加12施設において、早期胃癌患者433例が登録された。適格基準は1)胃癌の治療歴がない、2)原発巣の腫瘍径が4cm未満、3)cT1N0M0またはcT2N0M0の早期胃癌、とした。
SN生検には、放射性医薬品(Technetium-99mスズコロイド)と青色色素(isosulfan blue)を用いたdual tracer methodが推奨された。

 本試験の一次エンドポイントはSN statusに基づく転移の検出精度、二次エンドポイントはSN検出率、同定されたSN数とその分布、SN生検による有害事象であった。

結果

 登録患者433例中、397例(男性264例/女性133例、年齢中央値63歳)にSN生検が実施された。SN生検による重篤な有害事象は認められなかった。
 SNの検出率は97.5%(387/397例)、検出されたSN数の平均値は1症例あたり5.5個であった。また、リンパ節転移が認められたのは57例で、そのうち53例(93%)はSN陽性、4例(7.0%)はSN偽陰性であった。全体の一致率は99%(383/387例)であった。

 SN偽陰性4例のうち、pT2症例は2例、腫瘍径4cm以上の症例は2例であった。また、3例には、SNのリンパ流域の限られた範囲内に、リンパ節転移が認められた。
 一方で、術中迅速診断の精度は症例ベースで79%と満足のいくものではなく、永久標本検査でSN陽性と診断された53例中、9例が術中迅速診断では陰性と診断されていた。このうち7例はSN、2例はSNのリンパ流域内の転移であり、SNのリンパ流域外への転移は皆無であった。このことより、SNを含めたリンパ流域郭清(basin dissection)の施行によって、過不足のないリンパ節郭清が可能となるものと思われた。

結論

 以上の結果より、早期胃癌におけるSNマッピングの有用性が実証された。SN陰性の早期胃癌(cN0)においては、腹腔鏡下での最小限の胃切除、ならびにSNリンパ流域の選択的リンパ節郭清が、より侵襲の少ない外科手技として強く勧められる。

【関連情報】

2009年 米国臨床腫瘍学会年次集会 速報演題レポート #4518
「胃癌のセンチネルリンパ節マッピングに関するプロスペクティブな多施設共同試験」