2010年 消化器癌シンポジウム 演題速報レポート 消化器癌治療の広場

2010年 消化器癌シンポジウム

演題レポート Presentations

 

Stage III胃癌に対するより強力な補助化学療法の開発

寺島 雅典 先生

 現在、我が国ではstage II、IIIの進行胃癌に対しては、S-1による術後1年間の補助化学療法が標準治療として位置づけられている。その根拠となったACTS-GC試験1)において、stage IIに対する治療成績はほぼ満足のいく結果であったが、stage III、とりわけstage IIIBに対してはS-1単独による治療では未だ不十分であるとする見解が多い。したがって、stage IIIを対象としてより強力な化学療法を、術前もしくは術後に施行する臨床試験がいくつか企画されている。今回の消化器癌シンポジウムでは、2つの術後補助化学療法に関する第II相試験の結果が報告されていた。

 1つはJCOGで実施されたS-1+cisplatin(CDDP)の臨床試験であり(Abstract #104)、もう1つはOGSGで実施されたS-1+docetaxel(doce)の臨床試験である(Abstract #100)。

 S-1+CDDPは現在進行再発胃癌に対する標準治療であり、これを術後に実施するというのは、治療戦略としてはきわめてreasonableである。しかし、術後経口摂取が進まない時期に消化器毒性が強いregimenを実施するのは、現実的にはかなり困難であり、途中で1コース目をS-1単独にするプロトコールの変更が必要となった。プロトコール変更後は、きわめて忍容性・安全性の高い治療法となり、81%の症例で3サイクルの完遂が可能であった。

 一方、S-1+doceに関しては、進行再発胃癌に対してS-1 vs. S-1+doceの臨床試験が実施されており、現在最終的な解析結果待ちの段階である。この試験でS-1+doceがS-1単独より有意に上回っていれば、S-1+doceも進行再発胃癌に対する標準治療の1つとして位置づけられる可能性がある。OGSGでは、このregimenを術後に4サイクル施行し、その完遂率を検討した。その結果、完遂率は79.2%と極めて良好であった。

 以下にこの2つの試験を比較してみたが、安全性・忍容性に関して大きな差は認められなかった。今後、生存解析の結果などから、どちらのregimenが好ましいか、また術前治療との比較試験を行うか否かなどが検討されるべきと思われる。

表

Abstract #100
D2郭清胃切除術後のstage III患者に対する術後補助化学療法としての
S-1+docetaxel療法の忍容性試験(OGSG 0604)

Phase II feasibility study of adjuvant S-1 plus docetaxel for stage III gastric cancer patients after curative D2 gastrectomy (OGSG 0604).

Yutaka Kimura, et al.

背景

 本邦におけるstage II、III胃癌患者のD2郭清胃切除術後の補助化学療法は、S-1単独投与がACTS-GC試験1) によって確立されているが、stage IIIの成績は十分とはいえない。

 一方、進行胃癌におけるS-1+docetaxel(doce)療法の治療成績は、奏効率56.3%、overall survival(OS)14.3ヵ月と報告されており2)、現在この結果をもとに、S-1 vs. S-1+doce療法の比較試験(JACCRO GC-03)が進行中である。
 上記のような背景から、今回、術後補助化学療法としてのS-1+doce療法の忍容性ならびに安全性の検討を行った。

対象と方法

 対象はstage IIIの胃癌で、6週間以内に根治目的のD2郭清胃切除術が施行された患者とした。治療スケジュールは下記の通りである。

  • S-1+doce療法2)
S-1(80mg/m2/day/b.i.d, day1-14, 経口投与)+doce(40mg/m2, day1, iv投与)、1週休薬を1サイクルとし、4サイクル実施
  • S-1単独投与(S-1+doce療法終了後)
S-1(80mg/m2/day)をday1-28に経口投与、2週休薬を1サイクルとし、術後1年まで実施

 一次エンドポイントは、S-1+doce療法4サイクルの忍容性(治療完遂率75%以上)とした。二次エンドポイントは、安全性、disease-free survival(DFS)、OS、術後1年までのS-1投与の忍容性、とした。

結果

 2007年5月〜2008年8月までに53例(男性42例/女性11例、年齢中央値65歳)が登録された。組織学的stage IIIAは36例、stage IIIBは17例であった。
 一次エンドポイントであるS-1+doce療法4サイクルの治療完遂率は79.2%(95%CI:65.9-89.2)、42/53例であり、忍容性が認められた。また、術後1年までのS-1投与完遂率は64.2%(95%CI:49.8-76.9)、34/53例で、ACTS-GC試験1)の結果とほぼ同等であった。
 Relative Performance(実際の総投与量/計画時の総投与量×100)によるコンプライアンスは、S-1+doce療法4サイクル終了時点で、S-1 79.6%、doce 87.8%であった。
 Grade 3以上の副作用は、S-1+doce療法4サイクル終了時点で、好中球減少49.1%(発熱性好中球減少9.4%)、悪心5.7%、食欲不振9.4%、倦怠感5.7%などであった。

 追跡期間中央値20.1ヵ月時点において、DFSおよびOSは中央値に未到達であった。

結論

 術後補助化学療法としてのS-1+doce療法は忍容性に優れ、4サイクルの投与は完遂可能であると考えられた。追跡期間が短くOSの評価はできなかったものの、S-1+doce療法は、D2郭清胃切除術後のstage III胃癌に対する最適な補助化学療法と考えられる。

Abstract #104
胃癌術後補助化学療法としてのS-1+CDDP療法の忍容性試験

Feasibility study of adjuvant therapy with S-1 plus CDDP in gastric cancer.

Daisuke Takahari, et al.

背景

 Stage II、IIIの胃癌においては、根治目的のD2郭清胃切除術を施行した症例に対する術後補助化学療法として、S-1の有効性が示されている1)。しかしながら、stage IIIAならびにIIIBでは、満足のいく成績は得られていない。
 一方、進行胃癌に対しては、SPIRITS試験3)にてS-1+cisplatin(CDDP)療法のS-1単独投与に対する優位性が示され、日本の標準的化学療法となっている。
 そこで我々は、stage III胃癌の術後補助化学療法としてのS-1+CDDP療法の忍容性試験を行った。

対象と方法

 対象は、日本人で、根治目的のD2郭清胃切除術を施行されたstage III胃癌患者(ECOG PS 0/1)とした。治療スケジュールは下記に示す通りである。途中、患者の術後の状態が安定せず、想定よりも多くの症例で好中球減少と食欲不振が認められたため、プロトコールを一部変更した。

  • プロトコール変更前
S-1(40mg/m2/b.i.d, day 1-21, 経口投与)+CDDP(60mg/m2, day 8, iv投与)、2週休薬を1サイクルとし、3サイクル実施。その後、術後1年までS-1投与

  • プロトコール変更後
S-1(40mg/m2/b.i.d)をday 1-28に経口投与、2週休薬。続けてS-1+CDDP療法(上記)を3サイクル行った後、術後1年までS-1投与

 一次エンドポイントはS1+CDDP療法3サイクルの治療完遂率、二次エンドポイントは S-1+CDDP療法2サイクルの治療完遂率、プロトコール通りの治療を実施できた患者の割合、ならびに有害事象とした。なお、各サイクルにおいてS-1を14日以上かつCDDPを投与できた場合に治療完遂とみなした。

結果

 2007年8月から2009年7月までに、全63例に対しS-1+CDDP療法が施行された。プロトコール変更前の患者数は25例(男性16例/女性9例、年齢中央値60歳)、プロトコール変更後は38例(男性25例/女性13例、年齢中央値62歳)であった。
 Grade 3以上の副作用は下表の通りである。治療完遂後30日以内の治療関連死は認められなかった。

表1

 また、一次エンドポイントであるS-1+CDDP療法3サイクルの完遂率は、不適格症例を除き、プロトコール変更前症例で57%(12/21例)、変更後症例では81%(30/37例)と、プロトコール変更後症例で有意に増加した(p<0.001 under the null hypothesis)。
 プロトコール変更前後の用量強度は、S-1では変更前0.67および変更後0.78、CDDPでは0.65および0.81であった。

結論

 Stage III胃癌に対する術後補助化学療法としてのS-1+CDDP療法3サイクルは、1サイクルをS-1単独投与、2〜4サイクルをCDDP併用に変更することにより、安全性、忍容性が向上した。今後、第III相試験において、術後補助化学療法としてのS-1+CDDP療法の有効性を評価すべきと考えられた。

Reference
1) Sakuramoto S, et al.: N Engl J Med. 357(18): 1810-1820, 2007
2) Yoshida K, et al.: Clin Cancer Res. 12(11): 3402-3407, 2006
3) Koizumi W, et al.: Lancet Oncol. 9: 215-221, 2008