2010年 消化器癌シンポジウム 演題速報レポート 消化器癌治療の広場

2010年 消化器癌シンポジウム

演題レポート Presentations

Abstract #282
切除不能進行再発大腸癌における2nd-line治療としてのFOLFIRI±panitumumab療法の第III相試験:
患者によるQOL評価(PRO)を含む中間解析結果

Randomized Phase 3 Study of Panitumumab with FOLFIRI vs FOLFIRI Alone as 2nd-line treatment in Patients with Metastatic Colorectal Cancer (mCRC): Patient Reported Outcomes (PRO).

Marc Peeters, et al.

KRAS遺伝子型と効果の関係をプロスペクティブに解析した初の大規模試験

小松 嘉人先生

 本試験は、cetuximabのレトロスペクティブな解析から得られたKRAS 遺伝子型と効果の関係を、プロスペクティブに解析できた初めての大規模試験として、大変有意義な試験であるといえる。結果は、cetuximabと同様に、KRAS 野生型ではPmab群で有意にPFSの延長がみられ、OSでは有意差はないものの改善傾向ありとのことで、納得できる結果であった。
 本試験の特徴としては、その試験の際に、QOLの評価を加えたことである。2つの方法を用いて実施したところ、KRAS 野生型、おそらくPmabの効果があり、何らかのbenefitが得られた患者さんのQOLが改善し、OHRでは有意差がみられたということであろう。HSIでは差が出なかったということは、その差はわずかであったのかもしれない。OHRは非常に感覚的であり、素直にQOLを反映している可能性もある。
 QOLの評価は難しく、どの評価法を用いるかということに関しても関心を置かねばならない。他試験と比較する際にも、どの評価法かを確認して考える必要がある。

 
背景

 完全ヒト型抗EGFRモノクローナル抗体であるpanitumumab (Pmab)は、転移再発大腸癌における単剤療法として欧米で承認されている。20050181試験は、切除不能進行再発大腸癌における2nd-line治療としてのFOLFIRI±Pmab療法の有効性と安全性をプロスペクティブに検討した、多施設共同無作為化第III相試験である。
 今回は、有効性、安全性、患者によるQOL評価(patient-reported outcomes;PRO)の中間結果を報告する。

対象と方法

 対象は、2006年6月から2008年3月までに登録された切除不能進行再発大腸癌の患者1,186例で、主な適格基準は、1) 6ヵ月以内に5-FU系薬剤ベースの化学療法により病勢進行を認めた、2) ECOG performance status (PS) が0-2である、3) 抗EGFR抗体およびirinotecan(CPT-11)の治療歴がない、などである。
 患者はPmab(6mg/kg、2週毎)+FOLFIRI療法群(Pmab併用群)591例またはFOLFIRI単独群595例に無作為に割り付けられた。評価項目は下記の通りである。

  • 一次エンドポイント
Progression-free survival(PFS)、overall survival(OS)
  • その他のkeyエンドポイント
Objective response rate(ORR)、time to progression(TTP)、duration of response、安全性、患者によるQOL評価(patient-reported outcomes; PRO)

 患者QOL評価には、EuroQol 5項目法(EQ-5D)のOverall Health Rating(OHR)およびHealth State Index(HSI)を用い、4週毎に評価を行った。OHRは健康状態を0-100点(100点が満点)で評価する方法、HSIは1)活動性、2)セルフケア、3)不安/抑うつ、4)日常活動、5)疼痛/不快感の5項目について3段階で評価する方法である。

結果

 対象患者1,186例のうち、1,083例(91%)でKRAS 測定が実施された。
 一次エンドポイントであるPFS(中央値)は、KRAS 野生型のPmab併用群で5.9ヵ月、FOLFIRI単独群では3.9ヵ月であり、Pmab併用群が有意に優れていた(p=0.004、HR=0.73)。
 OS(中央値)は、Pmab併用群で14.5ヵ月、FOLFIRI単独群では12.5ヵ月であり、Pmab併用群で改善傾向が示された(p=0.12、HR=0.85)。なお、KRAS 変異型においては、PFS、OSともに2群間に有意差は認められなかった。
 ORRは、KRAS 野生型のPmab併用群で35%、FOLFIRI単独群で10%であり、Pmab併用群が有意に優れていた(p<0.001)。
 患者QOL評価については、KRAS 野生型のOHRがPmab併用群で有意に優れていたが(p=0.0065)、HSIならびにKRAS 変異型では、有意差は認められなかった。
 Grade3/4の有害事象は、Pmab併用群において皮膚毒性、下痢が多くみられた。Infusion reactionはまれで、Pmab併用群においても1%未満であった。

結論

 本試験は、切除不能進行再発大腸癌の2nd-line治療においてKRAS statusをプロスペクティブに検査した初めての大規模臨床試験であり、KRAS 野生型の患者において、Pmab+FOLFIRI療法によるPFSの有意な延長効果が認められた。OSについては、有意差は認められなかったものの、改善傾向が示された。
 患者によるQOL評価については、KRAS 野生型のOHRにおいて有意差が認められたが、HSIおよびKRAS 変異型では有意差が認められなかった。現在、KRAS statusおよび治療群別の追加解析が進行中である。