2011年 消化器癌シンポジウム 演題速報レポート 消化器癌治療の広場

2011年 消化器癌シンポジウム

演題レポート Presentations

Abstract #360
EXPERT-C: ハイリスク直腸癌患者における直腸間膜全切除 (TME) 施行前の補助療法としてのCapecitabine + Oxaliplatin療法およびCetuximabを上乗せした化学放射線療法の有用性の検討: 欧州多施設共同無作為化比較第II相試験

EXPERT-C: A randomized phase II European multicenter trial of neoadjuvant chemotherapy (capecitabine/oxaliplatin) and chemoradiation (CRT) with or without cetuximab followed by total mesorectal excision (TME) in patients with MRI-defined high-risk rectal cancer.

Alice Dewdney, et al.

術前化学放射線療法におけるCetuximabの上乗せ効果の検証

金澤 旭宣 先生

 術前放射線療法および術前化学放射線療法の全生存期間 (overall survival: OS) に対する評価は定まっていないため、今なお種々の臨床試験が施行されている。本試験はKRAS 野生型の切除可能直腸癌に対して病理学的完全奏効 (pathological complete response: pCR) 率を一次エンドポイントとした意欲的な臨床試験である。残念ながらpCR率は有意差は出なかったものの、その他の試験結果自体は興味深い。骨盤内操作が重要である直腸癌手術におけるR0率の向上は外科医の立場からも期待される結果であるが、本試験において奏効率 (response rate: RR)、R0率ともに有意なCetuximabの上乗せ効果が得られただけでなく、OSでの有意差にもつながっている。Cetuximabの上乗せにより、皮膚毒性や下痢は増加したものの、重篤な合併症に至らなかったことは評価できる。術前化学放射線療法は放射線による晩期障害などのデメリットもあり、Cetuximab + 化学療法と放射線療法 + 化学療法のRRがいずれも70%程度と同等であったことからも、化学放射線療法とCetuximab + 化学療法の使い分けも選択肢となり得る可能性もある。今後もこの分野での有効性を示すデータと症例プロファイルが蓄積されることを期待したい。

 
背景と目的

 直腸癌における短期間の術前放射線療法1)および化学放射線療法 (CRT) 2) は、いずれも局所再発率を低下させるが、OSへの影響については評価が定まっていない。我々は以前、MRIで予後不良と診断された直腸癌患者に対し、直腸間膜全切除 (total mesorectal excision: TME) および術前CRTの実施前後に化学療法を追加した治療を、シングルアームの第II相試験 (EXPERT試験) において検証し、忍容性があることを報告した3)
 一方、Cetuximabは頭頸部癌において、放射線療法との併用により、局所の疾患制御率およびOSの改善が報告されている4)。また、第I/II相試験により、放射線化学療法との併用による想定外の副作用がなかったことも示されている5)
 今回、ハイリスク直腸癌患者において、EXPERT試験の治療に対するCetuximabの上乗せ効果を検証するため、多施設共同無作為化比較第II相試験を行った。

試験方法

 対象は、MRIによりハイリスクと診断された手術の可能な局所直腸癌 (腺癌) とし、下図の2群に無作為に割り付けた。

図 試験デザイン

  • 一次エンドポイント: KRAS およびBRAF 野生型 (以下、野生型) におけるpCRとし、手術未施行例は画像診断CRとした。
  • 二次エンドポイント: R0切除率、無増悪生存期間 (progression-free survival: PFS)、OS、RR、安全性、QOLなど

結果

 2005年から2008年までに、欧州15施設から165例 (XELOX群81例、XELOX + Cetuximab群84例) が登録された。術前CRTを施行された患者はXELOX群で89%、Cetuximab併用群では94%であり、手術まで完遂できたのは各々89%、92%であった。
 野生型は60% (90例; 各々44例、46例)、KRAS またはBRAF 変異型 (以下、変異型) は合計40% (59例; 32例、27例) であった。
 野生型における治療成績はに示す通りである。

表1 治療成績 (KRAS/BRAF野生型)

 一次エンドポイントである野生型におけるCR率は、XELOX群で9%、Cetuximab併用群では11%であり (p=1.0)、またpCR率についても有意差は認められなかった (p=0.714)。
 生存期間においては、PFSでは有意な差はみられなかったが (p=0.668)、OSではCetuximab群で有意な改善が認められた (p=0.035)。さらに、野生型 + KRAS codon13変異型においても、Cetuximab併用によるOSの有意な改善が認められたが (p=0.0107) 、変異型では両群間に差はみられなかった (p=0.579)。
 また、野生型における術前補助療法のRRは、術前補助化学療法がXELOX群50%、XELOX + Cetuximab群70% (p=0.038)、術前補助化学療法 + CRTが各々72%、89%であり (p=0.028)、いずれもCetuximab併用群で有意に優れていた。一方、野生型におけるR0切除率は各々84%、93%であり、その他の手術転帰についても両群間に有意な差はみられなかった。
 Grade 3/4の有害事象については、全治療期間を通じてCetuximab投与群に皮疹が多く認められた (術前補助化学療法: 10例、術前CRT: 9例、術後補助化学療法: 10例)。下痢は、術前補助化学療法中はXELOX群9例、Cetuximab併用群8例と同程度であったのに対し、術前CRTでは各々1例、10例とCetuximab併用群で多くみられた。

結論

 一次エンドポイントである野生型におけるCR率およびpCR率については、両群間で有意差は認められなかったが、RRについては有意な改善が得られた。3年OSについても、Cetuximab併用群における有意な改善が認められた。
 術前補助療法中のCetuximab併用群の有害事象としては、皮膚毒性が高頻度でみられた。また、術前CRT中の下痢の発生頻度はXELOX群に比べて高かった。

Reference
1) Swedish Rectal Cancer Trial: N Engl J Med. 336(14): 980-987, 1997 [PubMed
2) Bosset JF, et al.: N Engl J Med. 355(11): 1114-1123, 2006 [PubMed][論文紹介
3) Chua YJ, et al.: Lancet Oncol. 11(3): 241-248, 2010 [PubMed
4) Bonner JA, et al.: N Engl J Med. 354(6): 567-578, 2006 [PubMed
5) Glynne-Jones, et al.: Acta Oncol. 49(3): 278-286, 2010 [PubMed