2011年 消化器癌シンポジウム 演題速報レポート 消化器癌治療の広場

2011年 消化器癌シンポジウム

演題レポート Presentations

Abstract #363
治癒切除後のstage III結腸癌患者における術後補助化学療法としてのFOLFIRI ± Cetuximab療法: NCCTG Intergroup phase III trial N0147

Adjuvant FOLFIRI ± Cetuximab in Patients with Resected Stage III Colon Cancer - NCCTG Intergroup phase III trial N0147.

Jocelin Huang, et al.

治癒切除されたstage III結腸癌に対し、術後補助化学療法としてFOLFIRI + Cetuximabは有用となり得るか?

橋 孝夫 先生

 N0147試験は当初、治癒切除後のstage III結腸癌を対象とし、FOLFIRI ± Cetuximab、FOLFOX ± Cetuximab、FOLFOX→FOLFIRI ± Cetuximabの6群に無作為に割り付けられた無作為化比較第III相試験であったが、PETACC-3試験等1-3)の結果を受け、FOLFIRI群は途中で中止となったようである。しかしながら、今回は中止になるまで登録された症例において、FOLFIRI単独群とFOLFIRI + Cetuximab群の2群間での比較・検討が行われた。
 その結果、KRAS 野生型においてFOLFIRI単独群の3年DFSは69.8%に対し、Cetuximab併用群では、なんと3年無病生存期間 (disease-free survival: DFS) は92.3%と有意に改善した。同じN0147試験におけるFOLFOX ± Cetuximab (KRAS 野生型) の成績が2010年 米国臨床腫瘍学会年次集会4) で報告されたが、それによるとFOLFOX群の3年DFSは75.8%、FOLFOX + Cetuximab群では72.3%と、やはり術後補助化学療法としてFOLFIRI単独群はFOLFOX単独群より劣っていたが、FOLFIRI + Cetuximab群では明らかに3年DFSでFOLFIRI単独群のみならず、FOLFOX ± Cetuximab (KRAS 野生型) より優っている結果であった。なおKRAS statusに関係なく、3年DFSをFOLFIRI + Cetuximab群は改善し、全生存期間 (overall survival: OS) においても3年DFS同様、改善傾向にあった。
 FOLFIRIの術後補助化学療法はPETACC-3試験1) およびACCORD02試験2)により5-FU/LVと比較し、優越性を示すことはできなかった。今まで術後補助化学療法においてはMOSAIC試験5)によりFOLFOXは5-FU/LVより優越性が示され、標準治療として認められた経緯がある。しかし、術後補助化学療法としては、同じN0147試験において、分子標的治療薬であるCetuximabをFOLFOXに追加する優越性は示せなかった。また、今回の消化器癌シンポジウムにおけるAVANT試験の結果報告にて、術後補助化学療法としてもう1つの分子標的治療薬であるBevacizumabのFOLFOXに対する上乗せも否定された6)
 よって、術後補助化学療法において分子標的治療薬の上乗せはないものと考えていたが、今回、初めてCetuximabをFOLFIRIに追加することにより優越性を示す可能性が出てきた。本試験では、FOLFIRI群 106例、FOLFIRI + Cetuximab群 40例とサンプルサイズが小さいため、まだ明らかでないが、FOLFIRI に対してはCetuximabの相乗効果があり、相性がよいのかもしれない。これを証明するには大規模臨床試験が必要かもしれないが、しかしベースとなるFOLFIRIが術後補助療法では標準治療として認められていないため、FOLFIRIにCetuximab併用群が本当に有用かどうか、今後はどのように展開されるのか興味深いところである。

 
背景

 Irinotecan (CPT-11) は転移を有する切除不能大腸癌に対し、単剤および5-FU/LVとの併用により抗腫瘍効果が示されている。しかしながら、治癒切除後のstage III結腸癌患者に対しては、5-FU/LVと比して、生存における統計学的な有意差は証明されていない。
 本試験では、当初、FOLFIRI + Cetuximabの2群が組み込まれていたが、PETACC-3試験1)およびACCORD02試験2) (FOLFIRI)、CALGB89803試験3) (IFL) などの結果より、術後補助化学療法としてのCPT-11の上乗せ効果が認められなかったことから中止となった。今回は、両群の試験中止までの成績を報告する。

対象と方法

 本試験は、治癒切除後のstage III結腸癌を対象とし、FOLFIRI ± Cetuximab、FOLFOX ± Cetuximab、FOLFOX→FOLFIRI ± Cetuximabの6群に無作為に割り付けた。今回はFOLFIRI ± Cetuximabの2群についての検討である。両群の治療スケジュールを下記に示す。


  • FOLFIRI (n=106)

CPT-11 (180mg/m2, day 1, iv投与)、LV (400mg/m2, day 1, iv投与), 5-FU (400mg/m2, day 1,
bolus投与; 2,400mg/m2, day1-2, civ投与)
2週を1サイクルとし、12サイクル (6ヵ月間) 実施

  • FOLFIRI + Cetuximab (n=40)

FOLFIRI + Cetuximab (初回400mg/m2, 2回目以降250mg/m2, day 1および8, iv投与)
2週を1サイクルとし、12サイクル (6ヵ月) 実施


 一次エンドポイントはdisease-free survival (DFS: 無病生存期間)、二次エンドポイントはoverall survival (OS: 全生存期間) および毒性とした。

結果

 KRAS 検査は99.2%の症例で実施され、KRAS 野生型はFOLFIRI群65%、FOLFIRI + Cetuximab群65%、KRAS 変異型は各々31%、33%、不明は4%、2%であった。
 3年DFSおよび3年OSは下表に示す (追跡期間中央値; FOLFIRI群: 60.1ヵ月、 FOLFIRI + Cetuximab群: 58.2ヵ月)。FOLFIRI + Cetuximab群はKRAS statusに関係なく、DFS、OSともにFOLFIRI群に比べて改善傾向にあった。

表 3年DFSおよびOS

 また、2010年 米国臨床腫瘍学会年次集会にて報告した本試験のFOLFOX ± Cetuximab群 (KRAS 野生型) の成績4)をみると、3年DFSはFOLFOX群よりもFOLFIRI群のほうが低値であったが (FOLFOX群: 75.8%, FOLFIRI群: 69.8%)、Cetuximab併用群をみると、DFS、OSともにFOLFIRI + Cetuximab群のほうが高値であった。
 なお、Grade 3/4の有害事象の発生頻度はFOLFIRI群で53%、FOLFIRI + Cetuximab群では68%であった。

結論

 治癒切除後のstage III結腸癌患者に対する術後補助化学療法としてのFOLFIRIの3年DFSは、FOLFOXと比較して低値であったが、FOLFIRIとCetuximabとの併用はFOLFIRI単独に比べ、KRAS statusに関係なく、生存を改善する傾向にあった。また、FOLFOXとFOLFIRIでは、Cetuximab併用による相乗効果に相違がある可能性がある。

Reference
1) Van Cutsem E, et al.: J Clin Oncol. 27(19): 3117-3125, 2009 [PubMed][論文紹介
2) Ychou M, et al.: Ann Oncol. 20(4): 674-680, 2009 [PubMed
3) Saltz LB, et al.: J Clin Oncol. 25(23): 3456-3461, 2007 [PubMed][論文紹介
4) Alberts SR, et al.: 2010 Annual Meeting of the American Society of Clinical Oncology®: abst #CRA3507 [学会レポート
5) André T, et al.: N Engl J Med. 21(15): 2896-2903, 2003 [PubMed][論文紹介
6) de Gramont A, et al.: 2011 Gastrointestinal Cancers Symposium: abst #362 [学会レポート