2011年 消化器癌シンポジウム 演題速報レポート 消化器癌治療の広場

2011年 消化器癌シンポジウム

演題レポート Presentations

Abstract #366
遠隔転移を有するKRAS 野生型大腸癌患者におけるPanitumumab + AMG102 or AMG479とPanitumumab単独群との無作為化比較第I/II相試験: 安全性と有効性の結果

A Randomized, Phase 1/2 Trial of AMG 102 or AMG 479 in Combination With Panitumumab vs Panitumumab Alone in Patients With Wild-Type KRAS Metastatic Colorectal Cancer (mCRC) : Safety and Efficacy Result.

Eric Van Cutsem, et al.

大腸癌治療における新たな分子標的治療薬の可能性は?

室 圭 先生

 現在、大腸癌領域の分子標的治療薬として抗VEGF抗体薬であるBevacizumab、抗EGFR抗体薬であるCetuximabおよびPanitumumabが広く実地臨床で用いられている。両薬剤に関しては、抗癌剤に治療抵抗性となった高次治療としての抗VEGF抗体薬と抗EGFR抗体薬の併用療法 (double biologics: BevacizumabとCetuximabの併用) はBOND-2試験で上乗せ効果が示された。その一方で、一次治療におけるdouble biologicsは2つの臨床試験 (PACCE試験、CAIRO2試験) において有効性の上乗せ効果が否定されている。Double biologics自体は他癌種でその有効性が確認されている (HER2陽性乳癌におけるTrastuzumabとLapatinibの併用など) ことからも、大腸癌で今後展開していく可能性は十分あると考えるが、VEGFとEGFR以外をターゲットにした新たな分子標的治療薬の開発が急務である。
 そのようななか、大腸癌細胞のメカニズムの観点から重要視されている、PI3K/AKT pathwayやMAPK pathwayなどの経路にあるさまざまな分子を標的にした第I相、第II相レベルの試験が世界中で展開されている。RAF阻害剤、MEK阻害剤、PI3K阻害剤、c-Met阻害剤、IGF-1R阻害剤、その他 angiogenesis 阻害を有するマルチキナーゼ阻害薬など、非常に多くの薬剤の臨床試験が展開され注目されているが、大腸癌に対して有効性を示すものは、現在のところほとんどないのが現状である。
 本試験は、Panitumumabと新規分子標的治療薬であるRilotumumab (HGF<c-Met>阻害剤)、Ganitumab (IGF-1R阻害剤) のぞれぞれの併用療法 (double biologics) を検討した非常に興味深い試験である。GanitumabよりRilotumumabが奏効率において有望な可能性が示唆され、今後の臨床開発の成果が期待される。欲を言えば、現在大腸癌治療で問題となっているKRAS 変異例やBRAF 変異例に対して特異的に効果を発揮する治療薬の開発など、ターゲットが絞られてバイオマーカーによる治療効果予測が明瞭な、真の分子標的治療薬の登場が待ち遠しい。

 
背景と目的

 新規分子標的治療薬であるRilotumumab (AMG102) およびGanitumab (AMG479) は、各々c-Met受容体に対するリガンドであるHGF (hepatocyte growth factor: 肝細胞増殖因子) およびIGF-1R (insulin-like growth factor 1 receptor: インスリン様増殖因子1受容体) に対する完全ヒト型モノクローナル抗体である。
 本試験では、遠隔転移を有するKRAS 野生型大腸癌患者の既治療例において、AMG102あるいはAMG479にPanitumumabを併用した際の安全性および有効性を検討した。

試験方法

 本試験は3つのパートから成る。各パートの概要は以下の通りである。


  • Part 1

PanitumumabにRilotumumabを併用した際の耐用量を決定する第Ib相オープンラベル用量探索試験

  • Part 2

Panitumumab + Rilotumumab群、Panitumumab + Ganitumab群、Panitumumab + placebo群の3群における第II相プラセボ対照二重盲検無作為化比較試験

  • Part 3

Part 2のPanitumumab + placebo群において進行 (progressive disease: PD) あるいは不耐となった症例に対する2群間無作為化応用研究


 Part 1の一次エンドポイントは用量制限毒性 (dose-limiting toxicities: DLTs)、Part 2は奏効率 (objective response rate: ORR) とした。また、Part 2においては無増悪生存期間 (progression-free survival: PFS) および全生存期間 (overall survival: OS)、安全性、薬物動態、バイオマーカーについても解析を実施した。今回は、Part1、Part2の結果を報告する。

結果

 Part 1の結果より、Panitumumab 6mg/kg + Rilotumumab 10mg/kg、2週毎投与をPart 2に採用した。Part 2では2009年6月から2010年2月までに、11ヵ国37地域から142例の患者が登録された。追跡期間中央値は6.9ヵ月であり、現在も追跡中である。
 各群の患者背景は表1の通りであった。Panitumumab + Rilotumumab群において若干ECOG PS 0の割合が他群に比べて多い傾向がみられたが、その他は3群でほぼ同じであった。

表1 Part 2: 患者背景

 一次エンドポイントであるORRは、Panitumumab単独群21%、Rilotumumab併用群31%、Ganitumab併用群では22%であり、疾患制御率 (disease control rate: DCR) は各々56%、71%、61%であった。奏効期間中央値は3.7ヵ月、5.1ヵ月、3.7ヵ月であり、Rilotumumab併用群でわずかに良好であった (表2)

表1 Part 2: 奏効率

 また、PFS中央値は各々3.7ヵ月 (95% CI: 2.5-5.3)、5.2ヵ月 (3.6-5.4)、5.3ヵ月 (2.7-5.7)であり、Panitumumab単独群に対する各群のハザード比はRilotumumab併用群で0.96 (95% CI: 0.61-1.51)、Ganitumab併用群では0.89 (95% CI: 0.56-1.42) であった。
 安全性については、Rilotumumab併用群でGrade 3/4の発疹が29%、Ganitumab併用群では低マグネシウム血症が15%であり、他の2群に比べて発生頻度が高い傾向にあったが、その他はPanitumumab単独群とほぼ同様であった (表3)

表1 Part 2: 主な有害事象(全Grade: ≥20%, Grade 3/4: >2例)
結論

 本試験は切除不能大腸癌患者においてHGF (c-Met pathway) 阻害剤であるRilotumumab + Panitumumab併用療法の有効性を検討した初めての試験であり、Rilotumumabの上乗せ効果が期待できる結果が得られた。一方、Ganitumab + Panitumumabの併用では、ORRにおけるGanitumabの上乗せ効果は認められなかった。
 現在、本試験におけるバイオマーカーに関する解析が進行中である。

Reference
1) Saltz LB, et al.: J Clin Oncol. 25(29): 4557-4561, 2007 [PubMed][論文紹介
2) Tol J, et al.: N Engl J Med. 360(6): 563-572, 2009 [PubMed][論文紹介
3) Hecht JR, et al.: J Clin Oncol. 27(5): 672-680, 2009 [PubMed