2011年 消化器癌シンポジウム 演題速報レポート 消化器癌治療の広場

2011年 消化器癌シンポジウム

演題レポート Presentations

Abstract #428
Cetuximabに治療抵抗性を示したKRAS 野生型大腸癌患者におけるPanitumumabの有効性を検討したシングルアーム試験

A Single Arm Trial of Panitumumab in Cetuximab Refractory KRAS Wild-Type Colorectal Cancer

Raymond Wadlow, et al.

抗EGFR抗体薬の交叉耐性に関して

室 圭 先生

 本試験は、実臨床の現場で直面する疑問に直結した内容に基づいており、非常に興味をひかれた。さらに、予想通りのnegativeな結果が得られ、「やはりか」と残念に思う反面、日ごろの自分の臨床的対応に間違いのないことが確認されて安堵した面もある。本試験ではCetuximab治療抵抗例に対するPanitumumabの有効性は示されなかったが、逆 (Panitumumab治療抵抗例に対するCetuximabの有効性) の評価はされていない。しかしながら、逆であってもその結果は推して知るべし (当然期待できない) であろう。
 両薬剤に関しては、CetuximabのみADCC活性を有するから、とか、Panitumumabの方が抗体としてのaffinity (親和性) が強いから、などのmode of actionを根拠に交叉耐性がない (一方が治療抵抗性になっても、もう一方が有効な可能性がある) のでは、ということがまことしやかに語られたりしていた。本試験の結果はそれを見事に打ち破ったといえる。もちろん、本試験はsingle armの小規模phase II studyであり、検証試験ではない。それを盾に抗EGFR抗体薬の使い回しを止めない臨床医がいるかもしれないが、実臨床において基本的に行うべきではない、とする根拠としてはこれで十分であろう。大腸癌治療は次のステップに行くべきである。

 
背景と目的

 大腸癌化学療法において、抗EGFR抗体はKRAS 野生型患者に対する有用性が確立されている。Cetuximabがキメラ抗体であるのに対し、Panitumumabは完全ヒト型抗体であることが過敏症反応の発生頻度と関係しており、重篤な過敏症の発生頻度はCetuximabで3%、Panitumumabでは1%と報告されている。そのため、Cetuximabによる過敏症を起こした患者では、Panitumumabによって治療を代替できる場合がある。一方、Cetuximabに対して治療抵抗性を示した患者におけるPanitumumabの有用性については明らかでない。
 そこで、Cetuximabに治療抵抗性を示したKRAS 野生型の切除不能大腸癌患者におけるPanitumumabの有効性、さらに抗Cetuximab抗体および抗Panitumumab抗体の発現について検討した。

対象と方法

 対象は、Cetuximabを含む治療により増悪 (progressive disease: PD) が認められたKRAS 野生型の切除不能大腸癌患者とした。Panitumumab 6mg/kgを2週毎に投与し、PD、死亡、Panitumumab不耐または治療中止まで投与を継続した。
 一次エンドポイントは奏効率 (response rate: RR) とした。また、ベースラインおよび2サイクル前と3サイクル前の血液サンプルを収集し、イムノアッセイ (BIAcore) により、抗Cetuximab抗体および抗Panitumumab抗体の発現を測定した。

結果

 20例が登録され、男女各10例、年齢中央値54.5歳 (39-77)、ECOG PSは0=4例、1=14例、2=2例であった。治療期間中央値は2サイクルであった。最良治療効果は安定 (stable disease: SD) が9例 (45%) であり、奏効は認められなかった (表)

表 治療結果のサマリー

 有害事象の総数は266件であった。その大半はGrade 1 (184件、69%) またはGrade 2 (63件、24%)であり、Grade 3は19件、Grade 4は0件であった。
 全生存期間 (overall survival: OS) 中央値は2.1ヵ月、無イベント生存期間 (event-free survival: EFS) 中央値は1.7ヵ月であった。
 また、抗Cetuximab抗体の発現は認められなかったが、1例に抗Panitumumab抗体の発現がみられた。

結論

 Panitumumabは、Cetuximabに治療抵抗となったKRAS 野生型切除不能大腸癌患者においては有効ではない。

【関連リンク】

Panitumumab座談会
What is Panitumumab? ―進行再発大腸癌におけるPanitumumabの位置づけ

GI-pedia 第1回「大腸癌化学療法の変遷 (進行再発癌)」
3. Targeted therapy/3.3.1 Panitumumab単剤

化学療法のレジメ講座
Panitumumab単剤