2011年 消化器癌シンポジウム 演題速報レポート 消化器癌治療の広場

2011年 消化器癌シンポジウム

演題レポート Presentations

Abstract #8
局所進行胃噴門部および食道癌に対するFOLFOX + Cetuximabによる化学放射線療法:
GERCOR 第II相試験 (ERaFOX) の最終報告

Chemoradiation with FOLFOX plus Cetuximab in Locally Advanced Cardia or Esophageal cancer. Final Results of a GERCOR phase II Trial (ERaFOX).

Aimery de Gramont, et al.

 

局所進行食道癌に対するFOLFOX + Cetuximabを用いた化学放射線療法
―第III相試験に期待

橋 孝夫 先生

 JCOG9907試験1)、CALGB 9781試験2)にて、進行食道癌に対し、術前化学療法あるいは術前化学放射線療法 (chemoradiotherapy: CRT) が予後を改善するという結果が報告されている。化学療法としてはCisplatin (CDDP) + 5-FUが基本であるが、2009年 米国臨床腫瘍学会年次集会 には進行食道癌に対する化学療法として分子標的治療薬BevacizumabやCetuximabの併用化学療法の第I相、第II相試験の報告が散見された。また、Stahlらは局所進行食道癌 (T3-4, Nx, M0) に対し、術前化学療法施行群と術前CRT施行群で第III相比較試験の結果を論文報告し、術前化学療法より術前CRTのほうが生存期間延長に寄与すると結論づけている3)
 本報告は、局所進行食道癌に対するCRTではFPが基本であるが、もっとよいレジメンはないだろうかという試験である。CDDPをOxaliplatinに置き換えることにより良好な効果が確認されていること4)、またCetuximabは放射線療法と白金製剤ベースの化学療法との併用による相乗効果が確認されていることから5-6)、本試験では、FOLFOXを用いたCRTにCetuximabを加えた際の安全性および有効性を評価された。この試験における一次エンドポイントである全奏効率 (overall response rate: ORR) は77.2%と良好であり、有害事象は忍容可能であった。
 FOLFOXは大腸癌ではすでに標準治療となっている。また、Cetuximabは放射線療法と白金製剤ベースの化学療法との併用による相乗効果が確認されている5-6)ことから、確かによいかもしれない。しかし最近の大腸癌に関しては、術後補助化学療法においてN0147試験にてFOLFOXに対するCetuximab の上乗せが否定され7)、また切除不能大腸癌においてもCOIN試験などにてFOLFOXへのCetuximabの上乗せ効果を認めなかったことから8)、果たして進行食道癌ではどうなのか? KRAS 遺伝子変異はどうなのか? など、大変興味深い。本試験の治療戦略の有用性を第III相試験によって評価されることが楽しみである。

 
背景と目的

 局所進行胃噴門部癌および食道癌に対するCRTでは、5-FUにCDDPを加えたレジメンが用いられているが、CDDPをOxaliplatin (L-OHP) に置き換えることにより良好な効果が得られることが確認されてい
4)。またCetuximabは、放射線療法と白金製剤ベースの化学療法との併用による相乗効果が確認されている5-6)
 本試験は、FOLFOXを用いたCRTにCetuximabを加えた際の安全性および有効性を評価する試験である。

対象と方法

 本試験は、オープンラベルシングルアーム多施設共同第II相試験である。対象は、stage IIIの食道または胃噴門部 (GEJ: 胃食道接合部) の腺癌ならびに扁平上皮癌とした。治療スケジュールを下記に示す。


  • 導入治療: FOLFOX + Cetuximab (2サイクル)
 

mFOLFOX6 (L-OHP 85mg/m2, day1, iv投与; LV 400mg/m2, day1, iv投与; 5-FU 2,400 mg/m2, day1-2, civ投与)

 

Cetuximab (初回400mg/m2, 2回目以降250mg/m2, day 1, 8, iv投与)
2週を1サイクルとし、2サイクル実施

  • 化学放射線療法 (3サイクル)
 

FOLFOX + Cetuximab (導入療法と同量、ただし5-FUのみ1,800mg/m2とする)

 

放射線療法50.4Gy (週5日照射, 1.8Gy/day)


 腫瘍の評価は、ベースラインおよびCRT終了時に臨床所見、CT、内視鏡検査および腫瘍組織の生検、超音波内視鏡検査 (EUS) によって行った。一次エンドポイントはORR とした。

結果

 2007年11月から2010年2月までに、12施設から80例が登録され、うち79例を対象に解析を行った。患者背景は、男性60例/女性19例、年齢中央値63歳、PS 0=47例/1=31例/不明1例であった。組織型は扁平上皮癌53例、腺癌25例、未分化型癌1例であり、腫瘍の部位は食道74例、胃噴門部5例であった。
 79例に導入治療が施行され、そのうち74例にCRTが施行された。各薬剤の総用量強度 (≧90%) はCetuximab: 73.4%、L-OHP: 77.2%、5-FU: 72.0%であった。
 一次エンドポイントであるORRはITT集団で77.2%であり (表1) 、無増悪生存期間 (progression-free survival : PFS) 中央値は13.8ヵ月 (95% CI: 9.7-21.0) であった。

表1 奏効率

 Grade 3/4の有害事象は表2に示す通りである。なお、RCT終了後、消化管出血を伴う食道炎による治療関連死が1例 (1.3%) に認められた。

表1 Grade 3/4の有害事象
結論

 本試験のORRは、治療閾値として設定した50%を上回る77.2%に到達し、また扁平上皮癌、腺癌の双方とも75%以上の症例で奏効が認められた。頻度の高いGrade 3/4の有害事象は、好中球減少および嚥下障害、皮疹などであり、忍容可能であった。以上より、本試験の治療戦略の有用性を第III相試験によって評価すべきである。
 なお、現在、全生存期間およびCRT後の手術データ、QOL (QLQ-C30) についての解析を進めている。

Reference
1) Igaki H, et al.: 2008 Annual Meeting of the American Society of Clinical Oncology®: abst #4510 [学会レポート
2) Tepper J, et al.: J Clin Oncol. 26(7): 1086-1092, 2008 [PubMed
3) Stahl M, et al.: J Clin Oncol. 27(6): 851-856, 2009 [PubMed
4) Conroy T, et al.: Br J Cancer. 103(9): 1349-1355, 2010[PubMed
5) Ruhstaller T, et al.: J Clin Oncol. 2011 Jan 4. [Epub ahead of print][PubMed
6) Lorenzen S, et al.: Ann Oncol. 20(10): 1667-1673, 2009 [PubMed
7) Alberts SR, et al.: 2010 Annual Meeting of the American Society of Clinical Oncology®: abst #CRA3507 [学会レポート
8) Maughan TS, et al.: 2010 Gastrointestinal Cancers Symposium: abst #402 [学会レポート