大腸癌の新TNM分類に準拠したリンパ節マッピングの意義
Anton J. Bilchik, et al., J Clin Oncol 21(4), 2003:668-672
TNM分類の改訂第6版では、センチネル・ノードの概念が導入され、リンパ節へのmicrometastases(MM;径0.2cm以下の転移)やisolated
tumor cells(ITC;径0.2mm以下の転移またはDNAレベルでの癌陽性)が規定されたが、その検索方法や意義は確立していない。この臨床研究では、色素とアイソトープによりセンチネル・ノードを同定し、HE染色とサイトケラチン染色を行ったセンチネル・ノード検査群120例と、マッピングをせずにリンパ郭清をした対照群370例とを比較し、MMやITCの検出率について検討した。
結果、センチネル・ノード検査群のHE染色による検討では、リンパ節転移陽性例は32%であった。HE染色ではリンパ節転移陰性であったセンチネル・ノード検査群を、サイトケラチン染色によりさらに検討すると、MMやITCなどの微小リンパ節転移が29%で認められた。つまり、センチネル・ノードの53%(58/110)に何らかの形で転移が認められた。また、転移がセンチネル・ノードのみに存在していたのは、そのうちの50%(29/58)であった。
深達度別のリンパ節転移陽性率は、センチネル・ノード検査群のT1:14.3%, T2:30%, T3:74.6%, T4:83.3%に対して、対照群ではT1:6.8%,
T2:8.5%, T3:49.3%, T4:41.8%であった。センチネル・ノード検査群は対照群に比べて、リンパ節転移陽性率(53%対36%, p<0.01),
MM・ITC陽性率(29%対2%, p<0.0001)ともに高率で、平均検査リンパ節個数も有意に多数(14個対10個, p<0.0001)であった。
この研究により、通常リンパ節検査は、新TMN分類で規定するMMやITCの検出には不適切であり、正確なstagingのためには、センチネル・ノード検査が必須であると結論している。
センチネル・ノード検査の標準化が次なる治療法の道を拓く
センチネル・ノードの概念は、数年前から注目され、悪性黒色腫、乳癌などでは、縮小手術を行ううえでの有用性が確立されつつある。著者らが所属するJohn
Wayne Cancer Centerは、西部劇で有名なジョン・ウェイン氏の寄付により設立された病院であるが、センチネル・ノードの国際学会を主宰するなど、この分野の中心的病院である。
大腸癌では、センチネル・ノード検索に基づく縮小手術の利点が、悪性黒色腫、乳癌などと比較して大きくないので、本研究では、センチネル・ノード検査を正確なstagingのための手段として評価している。今後、大腸癌において、MMやITCの重要性を確立するためには、センチネル・ノードの同定,
リンパ節のサイトケラチン染色, DNA検査などが標準化されることが何より必要である。また今後は、MMやITC陽性例の術後再発率が補助療法を必要とするほど高いかどうか、prospectiveな検討が必要となろう。
(消化器外科・上野雅資)