論文紹介 | 監修:財団法人癌研究会附属病院 藤田力也(消化器内科・部長/内視鏡部・部長)山口俊晴(消化器外科・部長)

2月

大腸癌肝転移に対する5-FUとロイコボリンによる肝動注療法と全身化学療法との多施設無作為化比較試験

David J. Kerr, et al., Lancet 361, 2003:368-373

 ヨーロッパで癌死亡の第2位を占める大腸癌で、肝臓は一番頻度の高い転移部位である。この研究は、大腸癌で肝臓に転移が限局した切除不能例に対して、標準治療の5-FU+ロイコボリンによる全身化学療法と同等レジメによる肝動注療法とで無作為化比較試験を行った。
 16施設からエントリーされた290例を動注群(肝動注療法)と静注群(全身化療)に無作為に割り付けした。動注群はロイコボリン 200mg/m2を2時間で静注し、その後に5-FU 400mg/m2を15分で動注、さらに5-FU 1600mg/m2を22時間で動注した。静注群はロイコボリン 200mg/m2を2時間で静注、その後5-FU 400mg/m2を15分で、さらに5-FU 600mg/m2を22時間で静注した。これを2日間続け、2週間間隔で繰り返した。主要エンドポイントは生存率、副エンドポイントは病変の非進行生存率, 毒性, QOLで、研究の分析は治療意図(intension to treat)をもとに行われた。
 動注群の50例(37%)、静注群の19例(13%)は治療を受けることができなかった。動注群の別の39例(29%)はカテーテルのトラブル等のため6サイクル終了前に中断せざるを得なかった。動注群は平均2サイクルであったが、静注群は8.5サイクルであった。治療を受けられなかったか、あるいは6サイクルを終了することができなかった動注群の41例(51%)は、静注群に変更された。両群ともグレード3, 4の副作用は少なかった。平均生存期間は動注群, 静注群で各々、14.7, 14.8カ月で統計学的に有意差はなく、非進行生存期間にも有意差はみられなかった。
 以上の結果より、動注群と静注群では非進行生存率、全生存率に有意差はなく、動注療法は今後、臨床試験以外で推奨される治療法ではない。

考察

動注療法の正しい評価を妨げている可能性

 大腸癌の肝転移に対する肝動注療法は全身化学療法に比べ、全生存期間, 非進行期間, 副作用, QOLにおいて差がなく、動注は臨床試験以外では使用すべきでないと結論している。この研究では、カテーテルのトラブルが多く、半数もの患者が静注群に変更されており、動注群の正しい評価を妨げている可能性がある。カテーテル閉塞は不十分な管理や、不適切なカテーテルの素材によるものかもしれない。また、食欲低下(32%), 吐気・嘔吐(58%)などの消化器症状が、わが国の5-FU WHD (weekly high dose)より多いのは、方法や量の違いと、血流改変のない右胃動脈への抗癌剤の流入、肝動脈閉塞による側副血行路の発達によると考えられる。カテーテル留置後に肝のフローチェックがされた記載もない。今後、より質の高い動注療法の実施可能な施設における無作為化比較試験が望まれる。

(内科・猪狩功遺)

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