大腸癌患者の予後に対する糖尿病の影響
Jeffrey A. Meyerhardt, et al., J Clin Oncol 21(3), 2003:433-440
インスリン非依存性糖尿病(NIDDM)患者では大腸癌発症のリスクが高いことが知られているが、大腸癌患者の治療効果や薬物毒性に対する糖尿病の影響については解明されていない。
本研究では、大腸癌治癒切除後の長期予後、および治療関連の毒性に対する糖尿病の影響を検討した。対象はstageII/IIIの大腸癌患者で、術後補助化学療法の臨床試験(Low-Dose
Leucovorin+5-FU, High-Dose Leucovorin+5-FU, Levamisole+5-FU, Low-Dose Leucovorin+
Levamisole+5-FUの4アーム)に参加した3759例であり、そのうち287例(7.9%)が糖尿病であった。
化学療法4アーム間での生存率には差はなかった。一方、糖尿病罹患群と非罹患群を比較すると、それぞれ5年無病生存率は48%と59%、5年無再発生存率は56%と64%、5年生存率は57%と66%といずれも罹患群で低かった。また、50%生存期間もそれぞれ6.0年と11.3年と、罹患群で短縮していた。年齢等修正死亡率は、罹患群は非罹患群に比し、全ての原因で42%、癌の再発で21%の危険度の増加を認めている。また、治療関連毒性では、grade
3/4の下痢を非罹患群20%に対し罹患群では29%に認めたものの、他の症候では有意差を認めなかった。治療関連死も両群で差を認めず、grade 3/4の下痢自体は、死亡率の増加に関与していなかった。
結論として、ハイリスクのstageII/IIIの大腸癌では、糖尿病が予後を左右する因子の一つであり、死亡率に加え、再発率も上昇させた。
糖尿病の大腸癌リスクのメカニズム解明に向けてさらなる検討が必要
インスリンは動物実験では大腸腫瘍のプロモーターとされており、臨床的にも血中インスリン・C-ペプチドの上昇は大腸癌のリスクと関連があるとの報告がある。また、早期乳癌患者では、空腹時の血中インスリン高値が遠隔転移や死亡率に関与しているとする報告がある。今回の多数例のcohort試験のデータから、糖尿病が大腸癌の罹患のみならず、死亡, 再発に対してもリスクファクターの一つであることが証明された。しかし、NIDDMでは初期には血中インスリンは高値になるものの、晩期にはβ細胞が枯渇して低インスリン血症となることが知られている。今回の検討では、IDDMとNIDDMの分類や、糖尿病の罹患期間などは不明であり、メカニズムを解明するためにさらなる検討が必要であろう。
(内科・保坂尚志)