高齢者の進行大腸癌患者におけるインフルエンザ・ワクチン接種の効果
Craig C. Earle, J Clin Oncol 21(6), 2003:1161-1166
化学療法を行っている進行大腸癌患者へのインフルエンザ・ワクチン接種の有効性を検討した。
1993〜1998年に老齢者医療保険(メディケア)の給付を受けたstage IV大腸癌患者を、毎年インフルエンザが流行し始める前の秋の時点でワクチン接種した群とワクチン接種しない群に分け、その後の経過と医療費について検討した。
結果、4,618人の登録進行大腸癌のうち、診断後4カ月以上生存した患者は3,132人で、1,991人に化学療法が施行され、そのうち1,225人は秋の期間に治療を受けていた。最終的に1,577人(person-years)が対象となった。1993年のワクチン接種率は26%であったが1998年には43%まで増加し、全体では39.7%であった。ワクチン接種は、68%が一般内科医によって行われ、接種を受けた者は白人、多くの合併症のある患者、富裕層に多かった。ワクチン接種により、化学療法施行中のインフルエンザや肺炎感染は3.8%から1.1%と有意に減少した(p=0.004)。また、死亡危険率も0.88と低下し、ワクチン接種により75%生存期間は241日から260日、1年生存率は55.3%から60.2%となり、生存期間の延長が認められた。また、ワクチン接種は入院期間を短縮し、医療費を減少させる傾向にあった。
インフルエンザ・ワクチン接種の効果は、健常者と同様であったが、予防接種を受けた割合は比較的低く、対象とした患者層に不均等があった。よりクオリティの高いケアを施すために、臨床腫瘍医は化学療法を受けようとする進行癌患者にインフルエンザ・ワクチン接種を勧めるほうがよかろう。
インフルエンザ・ワクチン接種は化療中の癌患者に効果的か
健常人において、インフルエンザ・ワクチン接種の効果は70〜90%と報告されているが、癌患者に対する有効性はほとんど報告がなかった。今回の報告では、対象患者の偏りのためか、インフルエンザ・ワクチン接種の有効性が直接認められたわけではない。しかし、インフルエンザ感染の減少とそれによる化学療法の中断が抑制されており、間接的に有効性を示した報告である。現在、インフルエンザの予防・治療には、ワクチン接種と内服薬などの治療の2つがある。内服薬治療は副作用と価格の問題があるため、ワクチン接種の有効性が期待されている。今後は、無作為化比較試験による検討が必要と思われる。
(内科・浦上尚之)