論文紹介 | 監修:財団法人癌研究会附属病院 藤田力也(消化器内科・部長/内視鏡部・部長)山口俊晴(消化器外科・部長)

4月

大腸癌罹患率の低下におけるS状結腸内視鏡検査の長期効果

Polly A. Newcomb, et al., J Natl Cancer Inst 95(8), 2003:622-625

 S状結腸内視鏡検査によるスクリーニングは、大腸癌に対し、罹病率と死亡率を低下させる有効性が示されている。そして、現在のガイドラインでは、5年ごとのS状結腸内視鏡検査を推奨している。この論文は、S状結腸内視鏡によるスクリーニングと大腸癌の罹病率の関係をcase-control studyにより比較し、この検査間隔について検討したものである。
 1998年10月〜2002年2月に新規癌登録された20〜75歳の1,668例の大腸癌患者群(遠位結腸直腸癌患者1,026例および近位結腸癌患者642例)と、性別と年齢をマッチさせた対照群として無作為に選んだ健常人1,294例とを比較検討した。調査は電話にてスクリーリング歴と危険因子などを聞き取ることで行い、その結果を推計学的に検討した。
 大腸癌患者群の平均年齢60.6歳, 対照群の平均年齢62.0歳であった。大腸癌の家族歴(26% vs 15%), 平均BMI(27.8 kg/m2 vs 26.7 kg/m2), 喫煙歴(62% vs 57%)では、大腸癌患者群に高い傾向がみられた。女性患者における調査では閉経後のホルモン療法は大腸癌患者群で少なく(45% vs 50%)、危険因子とは考えられなかった。癌の局在は、限局性(localized)35%, 局所性(regional)50%, 転移性15%であった。対照群では50%がS状結腸内視鏡検査を受けており, 27%がS状結腸内視鏡検査によるスクリーニングを受けていた。
 S状結腸内視鏡検査によるスクリーニングは、一度もスクリーニングを受けていない患者群と比較して、遠位結腸直腸癌の罹病率を有意に低下させていた[オッズ比:0.24 (95% CI=0.17 to 0.33)]。これらの低下は, 最高16年間も変わることなく認められ、S状結腸内視鏡検査によるスクリーニングは長期間効果があることが認められた。また、頻回のS状結腸内視鏡検査によるスクリーニングは必要なく、10年ごとの検査で十分である。

考察

日本でのS状結腸内視鏡検査の位置づけ

 最近、S状結腸内視鏡検査の大腸癌に対する有効性が海外から多く報告されている。本研究は、対象となった患者に直接聞き取り調査をした検討であり、実際のカルテで病歴を確認したものではなく正確性に欠ける。また、S状結腸内視鏡検査によるスクリーニングをしても毎年1%の割合で、大腸癌の発生を認めているが、S状結腸内視鏡検査によるスクリーニングを行っている症例は早期発見され、死亡率低下に有効な可能性がある。しかし、この論文では癌の発生の低下および死亡率の低下ともに検査期間との検討が十分でない。本邦での大腸癌のスクリーニング検査は、便潜血反応検査が一般的で、S状結腸内視鏡検査はあまり行われていないのが現状である。今後は、わが国においても罹患のリスクにより、S状結腸内視鏡検査を含めたより効率的なスクリーニング検査を行う必要がある。

(内科・浦上尚之)

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