論文紹介 | 監修:財団法人癌研究会附属病院 藤田力也(消化器内科・部長/内視鏡部・部長)山口俊晴(消化器外科・部長)

4月

大腸癌に対する補助化学・放射線療法の実施率についての全癌登録調査の検証

John Z. Ayanian, et al., J Clin Oncol 21(7), 2003:1293-1300

 「stageIIIの結腸癌患者に対する術後補助化学療法が、またstageII/IIIの直腸癌患者に対する放射線化学療法が、生存率を向上させること」がrandomized trialsにより明らかになった。この全癌登録の調査研究は、こうした標準治療が実地医療にどの程度用いられているかを検証する目的で行われた。
 カルフォルニア州地域全癌登録を用いて、1996〜1997年に北カルフォルニア22郡でstageIIIの結腸癌と診断された1,422例およびstageII/IIIの直腸癌と診断された534例のデータを解析した。
 結果、化学療法の実施率は、55歳未満で88%、85歳以上で11%と、年齢階層により大きく差が認められた。放射線治療の実施率も55歳未満で82%、85歳以上で14%と同様に差が認められた。地域の特色、臨床的多様性、病院の性格を考慮して検討すると、化学療法は高齢者、未婚者に対して実施率が低く、放射線療法は高齢者、アフリカ系市民(黒色人種)、小規模病院で実施率が低いことが判明した。また、化学療法の実施比率は、病院間で79%から51%と大きく異なった(p<0.01)。医師に対する調査では、補助療法を実施しない理由として、患者の非選択(化学療法拒否:30%、放射線療法拒否:22%)、併発疾患による治療困難(化学療法不可:22%、放射線療法不可:14%)、補助療法の適応なし(化学療法:22%、放射線療法45%)との結果が得られた。
 治療の実施率が大きく異なることは、癌治療が全体として改善しうる余地があることを示している。

考察

全癌登録調査の検証は日本でも課題の一つ

 臨床試験の結果は「選ばれた患者に対する優秀な医療チームによって得られたチャンピオンデータ」であるとも言える。しかし、はたして標準治療として普及しえて、国全体として癌治療成果が向上しているであろうかとの疑問が生じる。この地域全癌登録を用いた調査研究により、医学的理由以外で標準治療としての補助療法が行われていない事実が判明した。別の検証方法として、放射線腫瘍学の分野ではPatterns of Care Study(PCS)が実施され、標準治療の実施率、実地臨床の課題が検証されてきた。日本でも「厚生労働省がん研究助成研究」として施行されている。
 米国では死因の第2位である大腸癌に対する標準治療も、高齢者, 経済的社会的弱者に対する治療方法の検討がまだ不十分であることが示された。
 臨床試験による進行癌の標準治療の確立と全癌登録による実地診療の検証は、わが国でも課題である。

(放射線治療科・小口正彦)

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