βカロチンの大腸腺腫再発に対する影響についての多施設検討
John A. Baron, et al., J Natl Cancer Inst 95(10), 2003:717-722
βカロチンは癌の化学予防の役割を期待されてきたが、喫煙者・飲酒者では肺癌のリスクを高めるとされている。本研究は、βカロチンの大腸腺腫の再発に対する影響を多施設二重盲検法で検討したものである。
対象は、少なくとも1個以上の大腸腺腫を摘出された後、全結腸内視鏡検査によりポリープが存在しないことが確認された患者である。対象はプラセボ単独群、βカロチン(25mg/日)投与群、ビタミンC+ビタミンE投与群、βカロチン+ビタミンC+ビタミンE投与群に振り分けられ、1年後および4年後に大腸内視鏡検査を施行された。開始時に、病歴、生活習慣についてのアンケートを行い、飲酒歴・喫煙歴が調査され、最終的に707例が解析対象となった。
登録時の喫煙者は19%、飲酒習慣があるのは71%で、26%が1日1ドリンク以上の大量飲酒者に分類された。βカロチンを投与している群による腺腫発生のリスク比は非喫煙・非飲酒者では0.56(95% CI=0.35-0.89)であったが、喫煙・非飲酒群では1.36(95% CI=0.70-2.62)、非喫煙・大量飲酒者では1.09(95% CI=0.80-1.49)、喫煙かつ大量飲酒者では、2.07(95% CI=1.39-3.08;p<0.001)と増加した。また、1cm以上のポリープ、絨毛成分をもつ病変や浸潤癌などの「進行した病変」でも、非喫煙・非飲酒者では0.55(95% CI=0.22-1.40)、喫煙かつ大量飲酒者では、2.84(95% CI=0.85-9.46;p=0.04)だった。プラセボ群のリスク比は非喫煙・非飲酒者0.72(95% CI=0.47-1.09)、喫煙かつ大量飲酒者では1.36(95% CI=0.67-2.76)であった。
以上のことから、βカロチンは喫煙・大量飲酒者では大腸腺腫発生を増加させると判断された。
βカロチンは大腸腺腫の化学予防目的では摂取すべきでない
βカロチンなどの抗酸化ビタミンによる癌・心血管疾患予防効果には、十分なエビデンスがない。βカロチンに関しては、心血管疾患や肺癌、前立腺癌、大腸癌、乳癌、皮膚癌を予防する効果がないうえ、ヘビースモーカーでは肺癌のリスクが高まるとのエビデンスが一方で得られている。本研究では大腸腺腫においても喫煙および大量飲酒者ではβカロチンが発生の増悪因子になりうると判断された。βカロチンは低酸素分圧下では抗酸化作用をもつが、高酸素分圧下では酸化促進作用をもつ。喫煙がこの環境を整えることが示唆されているが、アルコール摂取+βカロチン摂取の大腸粘膜への作用機序は、不明である。
現状ではβカロチンのサプリメントとしての使用は害が利益を上回ると判断され、癌の予防目的では摂取すべきでない。
(内科・小泉浩一)