論文紹介 | 監修:財団法人癌研究会附属病院 藤田力也(消化器内科・部長/内視鏡部・部長)山口俊晴(消化器外科・部長)

5月

直腸癌手術数と永久人工肛門造設率・術後生存率の関係についての施設間比較

David C. Hodgson, et al., J Natl Cancer Inst 95(10), 2003:708-716

 年間症例数の違いにより、癌の治療成績の施設間格差があることは、いくつかの癌腫で報告されている。この論文では、カリフォルニア州の癌登録を利用したコホート研究により、直腸癌手術件数と人工肛門造設率・直死率(術後30日以内の死亡率)・術後生存率の関係についての施設間格差を比較検討している。
 対象は、1994年1月〜1997年12月に手術したstageI〜IIIの直腸癌7,257例(367施設)である。年間平均手術例数から、21例以上施行(29施設)、14〜20例(48施設)、7〜13例(69施設)、6例以下(221施設)に分け、その4群間で比較検討した。永久人工肛門造設率はそれぞれ29.5%, 31.8%, 35.2%, 36.6%、直死率は1.6%, 1.6%, 2.9%, 4.8%、2年生存率は83.7%, 83.2%, 80.9%, 76.6%であった。多変量解析の結果、21例以上の施設のリスクを1とすると、それ以下の施設では、永久人工肛門増設のリスクは1.21, 1.34, 1.37、直死率は1.26, 1.52, 2.64、2年以内の死亡率は1.06, 1.17, 1.28であり、有意に増加していた。
 以上の結果から、直腸癌手術件数と永久人工肛門造設率、直死率、術後生存率との関係は明らかであり、施設間の治療内容の差異を解析することにより、すべての施設で良好な治療成績が得られるようになるであろうと結論づけられる。

考察

直腸癌治療の標準化はいまだ遠い!?

 直腸癌の手術成績に関しては、専門施設と一般施設での差異だけではなく、外科医の専門性によっても手術成績に有意差を認めたと欧米では報告されている。その中で、治療成績に差異を生じる原因は、主に局所再発であることから、専門医によるTME(total mesorectal excision)の徹底が重要であると結論している。この報告では、治療成績だけではなく、肛門括約筋温存の頻度にも施設間に格差を認めているが、年間平均手術施行20例以上の施設でも30%の症例で永久人工肛門となっており、本邦の専門施設の成績と比べると、かなり高率である(ちなみに、当院の昨年のデータでは7%であり、ほとんどの症例で、肛門括約筋の温存が可能となっている)。このような報告に基づき、今後直腸癌治療の標準化のために、どのような施策が行われるのか興味深い。

(消化器外科・上野雅資)

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