論文紹介 | 監修:財団法人癌研究会附属病院 藤田力也(消化器内科・部長/内視鏡部・部長)山口俊晴(消化器外科・部長)

6月

Nurses' Health Studyにおける夜間勤務と大腸癌の発癌リスク

Eva S. Schernhammer, et al., J Natl Cancer Inst 95(11), 2003:825-828

 夜間勤務、すなわち夜間の照明に曝露されることで、約2週間後のメラトニン(生理的には真夜中に多く分泌され、癌の増殖抑制に関与する)の産生が減少する。本研究では、間欠的な夜間勤務をある期間継続している看護師と大腸癌の発症リスクの相対危険度についてプロスペクティブに検討している。
 対象は、Nurses' Health Studyに所属する看護師のうち、経過や生活要因等の分析をしえた78,586名の女性で、夜勤を全くしなかった群と、月3回の頻度で1〜14年間夜勤を継続していた群、15年以上の継続群とで比較検討した。1988〜1998年の経過観察中に、602例の大腸癌が発症した。
 夜勤なし群と夜勤1〜14年群における大腸発癌リスクの相対危険度(RR)を年齢別で解析したところ、結果は1〜14年群でRR=1.00(95% CI=0.84-1.18), 夜勤15年以上はRR=1.44(95% CI=1.10-1.89;p=0.01)であった。対象症例の背景因子(BMI、投薬歴、喫煙等)の多変量解析では、夜勤1〜14年群がRR=1.00(95% CI=0.84-1.19), 夜勤15年以上群がRR=1.35(95% CI=1.03-1.77;p=0.04)であった。大腸癌の部位別の比較では、夜勤15年以上群において右側結腸癌の多変量解析でRR=1.41(95% CI=0.88-2.27)であった。
 年齢別と背景因子別いずれの解析においても、15年以上の夜勤の継続によって大腸発癌リスクの相対危険度が有意に高くなった。また、部位別では特に右側結腸の発癌リスクが高くなることが示唆された。

考察

今後望まれる女性の不規則夜間勤務対策

 メラトニン産生の抑制により、乳癌の発癌リスクが増加することが示されている。また、消化器癌においても、動物実験によりメラトニンが大腸癌細胞株の増殖抑制や、大腸癌の化学発癌の抑制が報告されている。また、人間においては、大腸癌患者のメラトニンの血清レベルは健常者より低値であることが報告されている。
 今回のコホート研究は、夜間勤務とメラトニンのサーカディアンリズムの変化に着目し、大腸癌との相対危険度と、他の発癌リスクを加味したプロスペクテイブな検討となっている。本研究では、女性が不規則な夜間勤務を15年以上継続すると、大腸の発癌リスクが増加することが示唆されており、今後夜勤継続年数の制限などの予防対策や、定期検診の励行などが望まれる。

(内科・千野晶子)

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