論文紹介 | 監修:財団法人癌研究会附属病院 藤田力也(消化器内科・部長/内視鏡部・部長)山口俊晴(消化器外科・部長)

7月

大腸癌に対する5-FUを基本とした術後補助化学療法の効果予測因子としてのマイクロサテライト不安定性

Christine M. Ribic, et al., N Engl J Med 349(3), 2003:247-257

 高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI)の大腸癌は、低頻度MSIの大腸癌と異なった臨床的および病理学特徴を有している。本研究ではstage II/IIIの大腸癌に対する術後補助化学療法の有用性の予測に、MSI試験が有効か否かを検討した。術後補助化学療法(5-FU+LV, 5-FU+levamisole)の無作為化比較試験に参加した症例を対象に、腫瘍組織におけるMSIをモノヌクレオチド、ジヌクレオチドマーカーで評価した。
 対象570例のうち95例(16.7%)が高頻度MSIであった。287例は術後補助化学療法未施行に割り付けられていた。このうち高頻度MSI群は、低頻度MSI群より5年生存率が良好であった[Hazard比0.31(95%CI=0.14-0.72)p=0.004]。術後補助化学療法の延命効果はMSIの違いにより異なっていた(p=0.01)。高頻度MSI群は術後補助化学療法施行例と未施行例で生存期間に差を認めなかった。
 一方、低頻度MSI群では、術後補助化学療法施行例は未施行例より有意に生存期間が延長していた(p=0.04)。5-FUを基本とした術後補助化学療法はstageII/IIIの低頻度MSI症例で有用だが、高頻度MSI症例では効果がないと結論した。

考察

MSI試験がフッ化ピリミジン系抗癌剤(5-FU)による術後補助化学療法の効果予測に有用

 最近の研究で大腸癌には、高頻度のマイクロサテライト不安定性(MSI)が認められるものと、マイクロサテライト安定性なものとが示されている。MSH2MLH1等のミスマッチ修復遺伝子は遺伝性家族性非ポリポーシス大腸癌(HNPCC)の原因遺伝子として同定された。これらの遺伝子に異常があると、高頻度にマイクロサテライトの不安定性が認められる。
 本研究では高頻度MSIを示す大腸癌症例は5-FUベースの術後補助化学療法が無効であった。このようなミスマッチ修復遺伝子欠損癌細胞にはカンプトテシン等のトポイソメラーゼ-T阻害剤が殺細胞効果を示す可能性がある。一方、低頻度MSI症例では5-FUを中心とした術後補助化学療法が有効であった。本研究は後向き研究であり各群に年齢差を認めるが、MSI試験がルーチン化され術後補助化学療法薬剤選択の指標になる可能性を示した。

(化学療法科・水沼信行)

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