p21WAF1/CIP1とKi-67の発現プロフィールの動態は術前放射線化学療法で治療された直腸癌の生存期間を予測する
Beate Rau, et al., J Clin Oncol 21(18), 2003:3391-3401
化学療法や放射線照射はアポトーシスによる細胞死を誘導する。p53遺伝子は細胞増殖とアポトーシスの制御の中心を担っている。著者らは、術前放射線化学療法(RCT)を施行される直腸癌症例を対象に、p53遺伝子とその下流のエフェクターであるp21WAF1/CIP1,
BAX, hMSH2, 細胞増殖活性のマーカーであるKi-67を検索し、予後因子としての意義を検討した。
この研究ではとくに、これら遺伝子のRCT前後の経時的変化に焦点を当てた。p53, BAX, p21WAF1/CIP1,
Ki-67, hMSH2の発現は、66例からRCT前, RCT後にプロスペクティブに採取された材料を用いて免疫組織化学的に検索した。腫瘍DNAのp53の変異はSSCP-PCR法でスクリーニングした。
その結果、RCT後にp21発現が低下した例およびKi-67で計測された細胞増殖活性が上昇した例では無病生存率が良好であった(p=0.03,
p<0.005)。また、RCT前のhMSH2の発現レベルが高い例は予後良好であった。一方、RCT前のp53, BAX,
p21の発現レベルやp53変異は予後と相関せず、これらの遺伝子の欠損よりも、放射線照射と化学療法の組み合わせの作用のほうが優位であることが示唆された。これらは、p21遺伝子が増殖活性とアポトーシスの両方を抑制することを臨床的に支持する新たな知見である。p21WAF1/CIP1の誘導は細胞増殖活性を低下させるが、最終的にはRCT後切除例における不良な治療成績と関連する。したがって、p21の誘導は直腸癌のRCTへの抵抗性の新たなメカニズムを示すと考えられる。
RCTへの抵抗性を示す新たなメカニズムとして注目
術前放射線化学療法(RCT)は、とくにヨーロッパにおいて、直腸間膜の全切除(total mesorectal excision:TME)の手術と組み合わせて、深達度T3
deepまたはT4の直腸癌症例に対する標準的治療に位置づけられている。また、個々の症例のRCTへの感受性と遺伝子マーカー関係の解析では、p53やp21と放射線感受性の関係が従来から報告されている。
本論文は、RCTによるp21の発現誘導と、その結果生じる細胞周期の停止(増殖活性の低下として表れる)が、癌細胞のRCTへの抵抗性獲得のメカニズムの1つであることを示した。細胞増殖活性の低下はRCTの効果でもあるが、一方でRCTへの抵抗性獲得を意味するという本論文の記述は、臨床的に非常に重要であり今後も十分検討されるべきある。
(消化器外科・大矢雅敏)