大腸癌スクリーニングにおけるシグモイドスコピーについて
John H. Scholefield, et al., Lancet 362 (9391), 2003:1167-1168
英国では厚生大臣Alan Milburnが大腸癌スクリーニングの推進を全国的に呼びかけてから、スクリーニングの適切な時期と、科学的根拠のある方法が検討されてきた。大腸癌は、その前駆病変である腺腫が癌になるのに要する期間が長く(10〜15年)、しかも腺腫は早期に発見することで容易に内視鏡で切除できるので、集団検診に向いている疾患である。確立されているスクリーニング方法としては、便潜血反応検査(FOBT)とシグモイドスコピー(SG)があり、SGの有用性は高いものの、そのコストが問題である。
すでに、2000年にはAmerican College of Gastroenterologyが、大腸癌発症リスクの高い50歳以上から、5年毎のSGを受診するガイドラインを提示しているが、最近Newcombらはケースコントロール研究から新たな提案をしている。それによれば、SGを倍の10年にしても、それによって死亡率などが影響されることはないだろうと結論している。しかし、いくつかの点でこの報告には疑問もある。つまり、調査の回収率が70%にすぎないこと、対象年齢が広すぎることのほかに、いくつかの危険因子により調整されたため、selection
biasのある可能性がある。また、Robert Schoenらは最近、SGで陰性であったもののうち、3年後のSGの再検で3%に、進行した腺腫もしくは癌を発見したと報告している。
いずれにしろ、スクリーニングの現状は完全ではなく、より感度のよい組み合わせ(FOBT等)や、低コストでの効率的なレジメンを打ち立てなければならない。それには、多くのデータの集計が必要であり、様々な方法での結果を提示していく必要がある。
シグモイドスコピーの確立にはさらなる検討が必要
胃癌検診では、早期胃癌を拾い上げるべく胃透視や、ペプシノーゲン法の導入がなされているが、わが国の大腸癌検診では、免疫学的便潜血検査のみで進行癌の拾い上げの効果を得るにとどまっている。大腸の場合, 複数検査の組み合わせでの検討がなされているが、精密検査の負担が大きいため確立されたものはない。シグモイドスコピー(SG)でどこまで観察するのか、どれ程の前処置にするかによっても検査の精度が変わってくるであろう。SGは、精度の高い観察のみに力点をおかず、科学的根拠のあるデータが証明できれば、便潜血検査に加わる一次スクリーニング法として活用できるのであろう。
(内科・千野晶子)