胃癌治癒切除後の予後を予測する計算図表(ノモグラム)
Michael W., et al., J Clin Oncol 21(19), 2003:3647-3650
The American Joint Committee on Cancer(AJCC)のstage分類は主に深逹度、リンパ節転移の数に基づき分類されている。しかしそれぞれのstageの中でも、患者個々にとっての予後に対するリスクはさまざまである。
1985〜2002年までに、Sloan-Kettering記念がんセンターで治癒切除(R0切除;切除断端が陰性でほとんど病変が切除された状態)が施行された症例のうち、不適格例を除く1,039例の胃癌患者の予後調査を行った。生存曲線はKaplan-Meier法、多変量分析にはCox比例ハザード回帰を用い、これらの分析から有用な計算図表(ノモグラム)を開発した。このノモグラムでは、年齢、性別、原発巣の部位、Lauren組織分類、切除した陽性および陰性リンパ節の数、深逹度を解析の指標とした。COXモデルでは診断時の年齢、原発巣、陽性リンパ節、深逹度が生存に関係していたが、性別、Lauren組織分類と病変サイズは関係ないことが確認された。ノモグラムでは数値として、5ないし9年後の予後(disease specific survival)を表しており、AJCCによるstage分類と比較して予後の予測に優れていた。
AJCC分類ではstageII, IIIAにおいて、生存率にばらつきがみられる。たとえば、stageIIの胃癌患者では5年生存の平均は0.57であるが、その幅は0.09〜0.90まであった。つまり、AJCCのstage分類のみではきめの細かい予後予測が不十分である。ノモグラムは胃癌治癒切除後の5年生存率の予測に有用であり、患者のカウンセリング、経過観察のスケジュール、臨床試験の適格な症例判断にも利用することが可能である。
オーダーメード医療の推進につながる計算図表(ノモグラム)
従来行われてきたstage分類だけでは正確な予後の予測がつかないため、年齢や陰性リンパ節の数、癌の部位など細かい分析を統計学的に行い、それを数値化し、表に当てはめ、5年後、9年後の予後予測スコアにしている。論文中の表を用いると、個々の症例でのポイントを測定することができる。通常のstage分類に対応させると、stageI, VIの症例ではばらつきが少ないが、stageII, IIIAの症例ではノモグラムにばらつきが多く、追加治療などで予後が変わりうることが示唆される。このスコアだけではまだ不十分であることが述べられているが、この試みはオーダーメード医療の推進につながるものである。このノモグラムを用いれば、5年生存、9年生存の予後についてコメントすることができ、追加治療の必要性などを判断するのに有用な因子となりうる。また今後は、これらの因子に加え、ゲノムの解析などを併用することで、ますます、きめの細かいオーダーメード治療が可能になると予想される。
(内科・藤崎順子)