論文紹介 | 監修:財団法人癌研究会附属病院 藤田力也(消化器内科・部長/内視鏡部・部長)山口俊晴(消化器外科・部長)

11月

VEGFレセプターチロシンキナーゼ阻害剤PTK787/ZK222584の薬理効果のバイオマーカーとしてのDynamic contrast-enhanced magnetic resonance imaging(DCE-MRI:ダイナミック造影MRI):肝転移を有する進行結腸直腸癌患者に対する2つの第 I 相試験結果

Bruno Morgan, et al., J Clin Oncol 21(21),2003:3955-3964

 血管内皮細胞増殖因子(VEGF)レセプターチロシンキナーゼの経口阻害剤PTK787/ZK222584(PTK/ZK)は、VEGFを介する血管新生を抑制する。このPTK/ZKの薬理動態効果を評価するため、進行結腸直腸癌患者における2種類の用量漸増第T相試験を行い、Dynamic contrast-enhanced magneticresonance imaging(DCE-MRI:ダイナミック造影MRI)を用いて肝転移巣の造影効果パラメーターの変化を検討した。26人の患者に対して、PTK/ZKの投与前(baseline)、2日目、1サイクルの最終28日目にDCE-MRIを施行した。PTK/ZKの投与量は1日1回50 mgから2,000 mgであった。腫瘍の血管透過性と血流量は、MRIの造影効果が腫瘍ごとにばらつきがあるため、絶対値より相対値を重視しbidirectional transfer constant(Ki)を用いて評価した。それぞれの時点でのbaseline kiとの比率(baseline Ki%)をパラメーターとして、薬理動態的エンドポイント、臨床的エンドポイントと対比した。
 その結果、baseline Ki%に対して、PTK/ZKの経口投与量とその血漿レベルの増加は負の相関を呈した(経口投与量:p=0.01、AUC:p=0.0001)。進行がみられなかった患者は、進行患者に比べ2日目と28日目にKi比の有意な減少がみられた(baseline Ki%の差の平均は2日目:Ki47%、p=0.004、最終28日目:51%,p=0.006)。baseline Ki%の差はWHOのPSで調整しても統計学的に有意であった。これらの所見は、DEC-MRIはPTK/ZKのような血管新生阻害剤の薬理効果と投与量を規定する有用な生物マーカーであることが示唆され、さらなる臨床の進歩が期待される。

考察

血管新生阻害剤の効果判定に対する、MRIを用いた新しい画像診断法の可能性

 VEGFレセプターチロシンキナーゼ阻害剤などの血管新生阻害剤は、従来の抗癌剤とは異なるメカニズムで腫瘍に作用するが、腫瘍の縮小がみられない場合は、その効果を客観的に判定することは難しい。近年、MRIは腫瘍の診断のみならず、その機能を評価する目的で使われているが、この研究は血管新生阻害剤の生物学的効果をDCE-MRIという手段を用い、初めて実際の患者を対象に行われたものである。造影効果の減少と薬剤に対する反応との間に有意な相関がみられ、抗腫瘍効果の判定に有用な生物マーカーであることが示唆された。DCE-MRIと臨床的エンドポイントとの相関が証明されれば、血管新生阻害剤の効用がより早い段階で明らかになり、治療方針を決める上でも有用であると考えられる。

(内科・猪狩功遺)

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