大腸腺腫に対する化学予防としてのカルシウム投与の効果について:無作為化試験の結果より
Maria V.Grau,et al.,J Natl Cancer Inst 95(23),2003:1765-1771
本研究は、腺腫発生に対するカルシウム投与と血清ビタミンDの影響を多施設無作為二重盲検法で検討したものである。対象は、1988年11月から1992年4月までに全大腸内視鏡検査が行われ、一個以上の大腸腺腫が切除されて3ヵ月以内の患者である。2,918例の適格者のうち、930例がカルシウム(炭酸カルシウム3g/日、またはカルシウム1,200 mg/日)またはプラセボの経口投与を受け、1年後と4年後に大腸内視鏡検査が行われた803例が解析された。4年間での新たな腺腫の発生と、進行病変(絨毛成分25%以上、浸潤癌、直径1cm以上の病変など)の発生をカルシウム投与群とプラセボ群とで比較検討した。ビタミンD受容体(VDR)のTaq1およびFok1の遺伝子多型による差も検討した。
血清25-(OH)ビタミンD値が中央値(29.1 ng/mL)以上の場合、カルシウム補充により新たな腺腫の発生が低下していたが(risk ratio(RR)=0.71、95%CI=0.57-0.89、p=0.012)、中央値以下の場合、腺腫の発生に差はなかった。一方、血清25-(OH)ビタミンD値は、全体では腺腫発生に関与しなかったが、カルシウム投与例でのみ腺腫発生を抑制し、(RR=0.88、95%CI= 0.77-0.99、 p=0.006)、進行病変の発生も抑制した。1,25-(OH)2ビタミンD値はいずれの場合も腺腫発生に関与しなかった。また、VDRの遺伝子多型は、いずれもカルシウム投与と腺腫発生のリスクには関与しなかった。
大腸腺腫の効率のよい化学予防に対する戦略
ビタミンDおよびその誘導体は、細胞増殖の抑制や細胞分化の促進、アポトーシスの誘導などの抗腫瘍効果が報告されており、カルシウムが大腸腫瘍の発生のリスクを減少するという報告もある。本研究で、大腸腺腫に対するカルシウム投与による化学予防は、活性型である1,25-(OH)2ビタミンD値には影響は受けないものの、宿主側のビタミンDの基礎状態といえる25-(OH)ビタミンD値が中央値以上の場合にのみ有効であることが示された。化学予防が、単独ではなく二つの因子が複合した条件下で有効であることを明らかにした点で、重要な研究である。相互作用を示す複数の因子を組み合わせた化学予防プログラムを作成することにより、宿主側の因子を考慮したオーダーメイド医療を目指すことができよう。
(内科・小泉浩一)