直腸癌(TME施行例)に対する術前放射線照射の費用対効果の検討
Mandy van den Brink, et al., J Clin Oncol 22(2),2004:244‐253
これまでのrandomized clinical trial(RCT)の結果、進行直腸癌に対して、標準的な外科治療であるtotal
mesorectal excision(TME)に術前放射線照射を加えると、局所再発が抑制されることが報告されているが、反面、患者のQOL低下や費用の増加などの不利益も認められる。本来、治療のベネフィットは、生存によって評価すべきだが、QOLや費用とのバランスも考慮する必要があり、特に癌患者の治療においては治療による不利益や費用が問題となる。こうした治療による利益と不利益を比較検討する目的で、TME単独とTMEに短期術前照射(5×5
Gy)を併用した2群のRCTを行い、術前照射の総合的効果の検討を行った。
対象は、108施設から1996年1月〜1999年12月に登録し、2群に割り付けられた切除可能進行直腸癌1,861例で、方法は、Morcovモデルを用いて、術前放射線照射の価値について、期待生存、QOL補正期待生存、患者一人当たりの生存にかかる費用、費用対効果の増加率などの点から検討を行った。
この結果、術前照射による期待生存は、QOLの低下を凌駕した。期待生存は0.67年延長し、QOL補正期待生存は0.39年延長した。一方、費用は一人当たり9,800ドル増加した。1人が1年間良好なQOLで生存するための費用は、25,100ドルであり、費用対効果として許容範囲であると考えられた。
以上より、TMEに加えて術前照射を施行することは、局所再発の制御やQOLを考慮した生存期間の延長だけでなく、費用対効果の点からも優れた方法であると結論づけている。
QOLを考慮し、治療効果の費用対効果をフェアーに解析
進行直腸癌に対する治療としての外科的切除+放射線療法の有効性を示すRCTの報告は数多くなされている。近年、TMEだけでも同等の局所制御が得られ、放射線照射では余計な有害事象や費用の増加があるとの批判がある。この批判に対して行なわれたRCTの解析である。同様の解析をしたSwedish Rectal Cancer Trial(SRCT)では、1人1年の生存を得るための費用は約3,700ドルとして、放射線照射の費用対効果をより高く評価しているが、期待生存のQOLによる補正はされていない。この論文では、QOL補正期待生存を用いて、より厳しい評価の上で、「QOLの良い1年の生存」を得る費用を25,100ドルとしている。この費用の評価は国情により異なるであろうが、治療の効果を対費用の面からフェアーに解析することは、標準的治療法を確立する上での重要な手段となるのではないだろうか。
(消化器外科・上野雅資)