HNPCC家系患者では遺伝子検査とカウンセリング後のスクリーニングが重要
Donald W. Hadley, et al., J Clin Oncol 22(1),2004:39-44
遺伝性非ポリポーシス大腸癌(HNPCC)は全大腸癌中の3〜5%を占め、もっともよく見られる遺伝性の大腸癌であり、HNPCC家系内で遺伝子変異を認める例は大腸癌の高危険因子群である。本研究は、HNPCC家系での遺伝子検査とカウンセリング(Genetic
Counseling and Testing:GCT)が大腸癌スクリーニングに及ぼす影響を検討したものである。
対象は、遺伝子異常が認められたHNPCC家系内で大腸癌の既往を持たない18才以上の56例で、遺伝子変異、年齢、性、就労状況、収入などの項目からGCTの影響を検討した。遺伝子検査では、17例(30%)が変異陽性、39例(70%)が陰性であった。変異陽性群の平均年齢は32.6才で陰性群の40.5才より有意に若く(p=0.03)、収入も低かった(p=0.04)。GCT以前に、30例(54%)が1回以上の大腸内視鏡検査を受けていた。GCT後12ヵ月以内に、12例(21%)が1回以上の大腸内視鏡検査を受けていたが、その内訳は、変異陽性群17例中9例(53%)、陰性群39例中3例(8%)と有意差があった(p=0.004)。GCT前後の大腸内視鏡検査受診率は、変異陽性群では差はなかったが、陰性群ではGCT後の大腸内視鏡受診が有意に減少した(前:59%、後:8%、p<0.00001)。また、全体のうち11例(20%)〔変異陽性群では6例(35%)、陰性群中では5例(13%)〕がガイドラインに従った12ヵ月後のプログラムから脱落した。変異陽性(odds
ratio(OR):7.5、p=0.02)、就労なし(OR:8.6、p=0.25)が有意に影響したが、年齢、性別、収入、GCT前の内視鏡検査などの他の因子はGCT後の内視鏡検査には影響しなかった。
効率的なスクリーニング検査を行うシステムの整備が必要
HNPCCは大腸癌の高危険因子群であり、家系内で一律のスクリーニング検査が推奨されてきた。本研究では、遺伝子検査で対象を絞り込み、カウンセリングによって働きかけることにより、スクリーニングプログラムをより効率的に運用できることを証明した。費用対効果や検査のリスクなどを考慮すると、効率的なスクリーニングプログラムの運用が求められる一方で、収入、就労状況や医療保険加入など、社会的因子により受診率が変動することが示唆されており、コンプライアンスを低下させないシステムの整備が必要であろう。本邦では、検診システムの中にいかに取り組むかが現実的な課題となる。また、特に若年者では、病気そのもの、ならびに検査についても理解が不足する傾向があり、遺伝子検査により高危険因子群を絞り込んだ上で、スクリーニング検査を啓蒙する必要がある。
(内科・小泉浩一)