切除可能直腸癌に対する術後放射線化学療法と、術前stagingに基づく術前放射線化学療法の比較 ‐Decision analysisによる研究‐
Jennifer J. Telford, et al., J Natl Cancer Inst 96(3), 2004:191-201
過去の放射線化学療法の臨床研究で得られたデータを、decision analysisという手法を用いて、術後放射線化学療法と術前stagingに基づく術前放射線化学療法の治療成績を比較検討した報告である。
術後放射線化学療法は直腸癌根治切除例のみに施行し、術前stagingに基づく術前放射線化学療法は、放射線化学療法後に根治切除または局所切除を行う例に施行した。
データは、SEER Program databaseとU.S. Life Tablesを用いた。
術前・術後の両補助療法において、直腸癌特異的な5年生存率が、同等である(70%)と仮定するならば、70歳の進行直腸癌を対象とした場合の術後放射線化学療法の期待生存期間は9.72年、生活の質を補正した期待生存期間は8.72年であったのに対して、術前放射線化学療法では、それぞれ9.72年、9.04年であった。
以上の結果から、術後放射線化学療法に較べて、効果や毒性の点で劣らないのであれば、術前stagingに基づく術前放射線化学療法は有用であると結論付けられた。
今後は術前放射線化学療法が主流となるのでは?
進行直腸癌の補助療法として、ヨーロッパでは術前放射線化学療法の有用性がRCTで確認されたのに対して、アメリカでは、術後放射線化学療法の有効性が報告されたため、現在、それぞれが標準治療と認められている。両者の違いは、治療時の診断が、病理所見か、画像所見かという点や、術前治療では腫瘍の縮小のために局所切除となる場合がある点、有害事象が異なるという点などがあり、生存率だけでは、両者を一概に比較できない。この問題を解決するために、著者はdecision analysisという手法を用いて、システム全体を比較し、術前放射線化学療法のシステムが劣っていないことを示している。現在、ドイツで、両者を比較するRCTが進行中であり、この結果が待たれるが、薬物治療や画像診断の進歩とともに、術前治療が主流となる趨勢を示した論文と言える。
(消化器外科・上野雅資)