EBV陽性胃癌 -予後良好でリンパ節転移が低率-
Josine van Beek, et al., J Clin Oncol 22(4),2004:664-670
Epstein-Barr virus(EBV)は、一部の胃癌で陽性であることが明らかにされている。著者らは、以前にEBV陽性胃癌のゲノムの特殊性について報告しているが、今回の研究ではEBV陽性胃癌とEBV陰性胃癌との臨床的な相違点を明らかにする目的で、オランダにおけるD1郭清とD2郭清の比較試験の566例(観察期間中央値9年)を対象とし、大規模なコホート解析を行った。
EBER1/2-RNAをターゲットとしたin situ hybridization法で測定すると、7.2%(566例中41例)でEBV陽性であった。EBV陽性胃癌は、男性(p<0.0001)、低年齢発症(p=0.012)で陽性率が高かった。組織学的には、腸型(p=0.047,Laurén分類)、管状腺癌(p=0.006,WHO分類)
、そして部位では、胃近位部癌(p<0.0001)での陽性率が高かった。また、EBV陽性胃癌ではリンパ管侵襲が少なく(p=0.026)、そのことがEBV陽性胃癌においてリンパ節転移が低率である(p=0.034)事を説明し得ると考えられた。無病期間の延長(p=0.04)や生存中のQOLが高く保持される(p=0.02)という良好な予後が認められた。それは、リンパ節転移や合併症発症が低率であるということと、低年齢発症であるという特徴により説明し得ると考えられた。
以上の結果からEBV陽性胃癌は、ゲノムの特殊性だけでなく良好な予後に関連する臨床病理的な特徴を持った胃癌であると結論づけている。
EBVの胃癌の発生における意義や役割については今後更なる検討が必要
胃癌症例の約10%でEBVが陽性であることが明らかにされ、EBVはH. pyloriと並んで発癌の危険因子として重要であると考えられる。本論文では、EBV陽性胃癌は男性、低年齢発症、胃近位部癌、萎縮粘膜(特に残胃癌)と関連性のあることが指摘され、臨床的にはリンパ節転移が低率であると特徴づけている。EBV陽性胃癌とEBV陰性胃癌とを比較した報告では、p53の過剰発現や18q染色体との関連が報告されている。胃癌組織中のEBVゲノムの特殊性はモノクローナルな増殖で特徴づけられ、EBVの胃発癌過程における重要性を示すものと考えられている。しかしながら、胃発癌過程におけるEBVの役割については不明な部分が多く今後の検討が必要である。
(消化器内科・石山晃世志)