ヘリコバクターピロリ感染と胃の萎縮:
食道腺癌と扁平上皮癌、噴門腺癌のリスク
Weimin Ye, et al., J Natl Cancer Inst 96(5), 2004:388-396
欧米における1970年以降の食道腺癌の増加はHelicobacter pylori(以下HP)の低感染率によると考えられている。HP感染と萎縮の程度、食道腺癌、食道扁平上皮癌、噴門腺癌のリスクについて、スウェーデンで大規模ケースコントロールスタディを行った。1995-1997年に診断された、80歳未満の食道腺癌97例、食道扁平上皮癌85例、噴門腺癌133例、対照499例に対し血清データを検討した。血清はHPの表面抗原としてHP-CSA、サイトトキシン関連遺伝子CagA抗原に対する抗体、萎縮の目安として、ペプシノーゲンIを調べた。胃食道逆流症状は食道腺癌54%、食道扁平上皮癌9%、噴門腺癌26%、対照17%に見られた。
HP-CSA抗体またはCagA抗体で示されるHP感染は食道腺癌のリスクを著しく低減させていたが、萎縮については関係がなかった。これに対し、食道扁平上皮癌ではHP-CSA抗体陽性率は対照とほぼ同様であったが、CagA抗体陽性は食道扁平上皮癌のリスクを上昇させることが分かった(オッズ比2.1,
95%CI:1.1〜4.0)。またこの影響は萎縮がある場合ではより強いリスクへの影響を与えていた。噴門腺癌のリスクはHP感染と無関係であったが、萎縮についてはesophagogastric
junction(EGJ)より上の癌ではペプシノーゲンI高値の者でリスクが高く、EGJより下では、ペプシノーゲンI低値でリスクが高かった。
また、患者618例、対照820例を比較したところ、上記癌患者では対照に比べ野菜の摂取量が少なかった。
HP感染は食道腺癌のリスクを下げるが、
食道扁平上皮癌のリスクを上げる? そのメカニズムは?
この文献ではHP感染でもCagA抗体で示されるHP感染が食道腺癌のリスクを減少させ、食道扁平上皮癌のリスクを上昇させることと関係があることが示された。HP-CSA抗体を用いた以前の報告で、HP感染と食道扁平上皮癌とは関係がないことが報告されていた。しかし、今回の検討では、CagA抗体陽性で萎縮の強い症例ほど食道扁平上皮癌のリスクが高かった。考案のなかでHP感染により引き起こされた強い萎縮により胃内のニトロ化が進み嫌気性菌が増え、胃のニトロソアミンが食道内に逆流し、発ガン物質になるのではないかと仮説をたてている。食道扁平上皮癌の患者に胃癌を合併している症例は日常遭遇することがあり、今回の検討を裏付けているのかもしれない。食道腺癌と扁平上皮癌はCagA抗体陽性HP感染に対し相反する関係があり、今後はこのメカニズムの解明が求められる。
(内科・藤崎順子)