ガストリノーマにおけるX染色体のヘテロ接合性の消失と
腫瘍の高浸潤性増殖との相関
Yuan-Jia Chen, M.D. et al., Cancer 100 (7) , 2004:1379-1387
ガストリノーマは最も一般的な膵臓の悪性内分泌腫瘍であり、15-30%の症例は高浸潤性増殖を示す。しかし、本腫瘍ではその悪性度を臨床病理学的所見から判定できない場合がある。予後因子が同定されて腫瘍の増殖様式が予測できれば、治療方針の決定に有用な情報をもたらすと考えられる。多くの腫瘍でX染色体のヘテロ接合性の消失(X-LOH)と臨床経過との関係について報告がなされており、今回ガストリノーマの増殖様式とX-LOHとの関連を検討した。Zollinger-Ellison症候群を呈するガストリノーマ16例(全例女性)を対象とした。外科的治療後は、腫瘍の再発進展について画像診断と血中ガストリンにより評価した。腫瘍体積が1ヵ月で25%以上増加している場合、あるいは各評価時に少なくとも1個の新しい再発巣が認められる場合に、高浸潤性増殖と定義した。一方、X染色体上の12個のマイクロサテライトについて腫瘍部DNAをmicrodissectionにより抽出し、末梢血より抽出したDNAを対照として、当該領域をPCRで増幅後、PCR産物を電気泳動により分離して、LOHの有無を判定した。
16例中9例でX-LOHが認められた。9例中5例は高浸潤性増殖を示した。また経過中に死亡した2例は、いずれもX-LOH(+)であった。X-LOH(−)の7例は、全て高浸潤性増殖を示さなかった。また膵原発症例は、一般に十二指腸原発例に比べて高浸潤性増殖を示すことが多いが、すべてX-LOH(+)であった。
X-LOHは女性患者のガストリノーマの50%以上に認められ、高浸潤性増殖と相関を認めた。
治療方針の決定には腫瘍の存在診断・悪性度の予測が重要
膵内分泌腫瘍では、細胞異型、核分裂像、被膜形成などの臨床病理所見が必ずしも診断の指標になり得ず、悪性度の判定が難しい症例がある。さらにガストリノーマは膵の他に十二指腸上部が主要な原発部位であることが明らかになってきた。従って腫瘍の存在診断と悪性度の予測は、治療方針を決める上で重要な情報である。
今回、著者らはガストリノーマにおけるX-LOHの有無と高浸潤性増殖との関連を検討し、有意な相関を認めた。多くの欠失が認められたXp22.1-22.3に、腫瘍の増殖に関与する遺伝子が存在する可能性もある。著者らは、ガストリノーマにおいて第1染色体長腕のLOHと高浸潤性増殖との有意な相関も以前に報告している。さらに発現プロファイルの網羅的解析なども、本腫瘍が有する高浸潤性増殖の機序の解明に有用であると考えられる。
(家族性腫瘍センター・新井正美)