新しく同定された、遺伝的背景を有するヒト膵癌細胞株FAMPACの特徴
Sven Eisold, M.D. et al., Cancer 100 (9), 2004:1978-1986
家族内発生がみられた膵癌患者から採取した未分化膵癌細胞の研究から、新しい膵癌細胞株FAMPACが同定された。家族性膵癌の責任遺伝子は今までのところ同定されていない。
FAMPAC細胞株の特徴を、その形態、増殖率、腫瘍発生能、染色体分析の面から明らかにした。既知の抑制遺伝子であるp16/CDKN2、 BRCA2、p53は膵癌発生に重要で、しばしば、様々な癌関連の症候群に関与している。これらの抑制遺伝子も分析した。
FAMPAC細胞は、10%胎児ウシ血清を加えた培養液の中でガラス面に接着して単層で増殖し、ヌードマウスに移植すると速やかに腫瘍として増殖した。倍加時間は24〜48時間であった。核型の検索では染色体の欠失と再構成の複雑さが明らかにされた。cytokeratin
7やMUC1などの細胞の腺分化マーカーは陰性で、未分化であることを示していた。また、分析の結果、変異p53の過剰発現(exon 5、codon
175:CGC →CAC)、p16におけるホモ接合性の欠失の存在、検索したホットスポットで野生型BRCA2の存在がみられた。
FAMPACは、遺伝的背景をもつヒト膵癌細胞株としては初めて樹立されたものである。FAMPACは、突然変異の複雑な分子パターンを持つ、腫瘍発生能を有する細胞株である。これらは散発性、あるいは遺伝性膵癌の発生機序を理解する上で重要である。
膵癌発生機序解明に意義を持つFAMPACの樹立
膵癌はその発生原因が解明されておらず、診断が発達した今日でも早期発見が難しく、切除する以外に有効な治療法が存在しない。発生率と死亡率がほぼ同じで、難治癌の代表である。家族性膵癌の発生頻度は5〜10%と報告されている。今回の研究で原因遺伝子は同定されなかったが、ヒト膵癌細胞株のFAMPACが樹立されたことは、膵癌発生機序を解明する上で大きな意義がある。この細胞株を、さらに分子生物学的なアプローチを駆使して解析することで、今後の新しい診断法や治療法の開発につながる知見が明らかになる可能性がある。
(内科・猪狩功遺)