プライマリーケア医からみた、米国のマネージドケア管理下における
結腸直腸癌スクリーニングの促進と障害
Gareth S. Dulai, M.D., M.S.H.S et al., Cancer 100(9), 2004:1843-1852
結腸直腸癌のスクリーニングテストとして、便潜血反応(FOBT)やS状結腸の内視鏡検査(FS)は十分行われていない。本研究の目的は、マネージドケア管理下で結腸直腸癌スクリーニングがどのように行われているか、またプライマリーケア医が検査法をどのように決定しているか明らかにすることである。
1999年11月から2000年8月にカリフォルニアの36の医療機関(24:会員制健康医療団体(保険加入会員へ医療サービスを提供する医師の管理組織:IPAs)、12:医療グループ)に、結腸直腸癌スクリーニングの状況などについてアンケート調査を行った。ランダムに1340のプライリーケア医にアンケートを送り、891(67%)の回答があり、最終的に不適当とされた51施設を除いた840施設で検討を行った。840施設の65%がIPAsで、35%が医療グループであり、消化器専門医は3%しか含まれていなかった。プライマリーケア医により結腸直腸癌スクリーニングを行うべき患者の79%に、少なくとも1つの検査が勧められていた。スクリーニング検査のうち、FOBTは90%の患者に、FSは70%の患者に勧められていた。ロジスティック回帰分析において、FOBTとFSの施行の障害となるのは、患者の問題(教育、例えば検査の意味の理解不足)と、プライマリーケア医の問題(患者にテストすべきことを呼びかけていない)であった。一方、保険の償還率を増加させたり、スクリーニングテストの有効性を示すことで、結腸直腸癌スクリーニングとしてのFOBTとFSは促進された。結腸直腸癌スクリーニングに高い優先度を与えられていること、医療グループに所属しているプライマリーケア医、そして定期的に検診を受けている人の割合は、スクリーニング検査の施行率と正の相関を示した。今回の検討の結果、マネージドケアにおいては、結腸直腸癌スクリーニングテストが活用されていないことが明らかになった。結腸直腸癌スクリーニングを促進するものと阻害するものが明らかになったことで、結腸直腸癌スクリーニングを促進するために何をすべきか示された。
欧米の管理医療の暗部
米国の医療制度(管理医療)と日本の医療制度の違いを考えさせられる論文である。米国においては結腸直腸癌の早期発見による予後改善は、有効なスクリーニングシステムがあるにも関わらず達成できていない。このアンケート調査による研究では、その原因が知識不足など患者側の問題と、マネージドケアの管理下にあるプライマリーケア医の問題とに分けて指摘された。そして、保険の償還率を上げたり、マネージドケア管理下にないプライマリーケア医にかかることが、スクリーニング率の改善に寄与することを示している。我が国でも近年、DPCによる包括払いなど、米国の医療制度を無批判に導入する動きがあるが、マネージドケアのように営利組織に管理された医療の限界を示す本論文は示唆に富むものと言えよう。
(内科・浦上尚之)