Dukes'B2およびDukes'Cの結腸癌切除例における細胞増殖活性、アポトーシス、DNAミスマッチ修復の欠陥、およびp53の過剰発現の予後因子としての意義:North Central Cancer Treatment Groupの研究
Megan M. Garrity, et al., J Clin Oncol 22(9), 2004 : 1572-1582
結腸癌の分子生物学的研究はその病因に関する知見をもたらしたが、分子マーカーの予後予測における重要性は明らかになっていない。そこで、Dukes'B、Dukes'Cの結腸直腸癌切除患者におけるTUNEL(terminal
deoxynucleotidyl transferase-mediated dUTP nick-end labeling=アポトーシスの指標)、bcl-2、p53、増殖能の指標としてKi-67、ミスマッチ修復状態(MMR)の予後因子としての意義を検討した。
検討材料は、North Central Cancer Treatment Groupによる術後補助化学療法に関する4つの第III相試験の対象症例366例(Dukes'B
75%、Dukes'C 25%)から、摘出された腫瘍組織を得た。患者の90%は5-FUベースの補助化学療法を施行され、腫瘍の87%は結腸癌であった。TUNEL、Ki-67、p53、bcl-2およびMMRは免疫組織化学的に分析した。進行度(stage)、組織型(grade)、MMR、Ki-67、およびフローサイトメトリーの指標(ploidyとS期分画)に関して、相関関係、および全生存期間(OS)と無病生存期間(DFS)との関係を検討した。単変量解析では、B2
stage、low grade、diploid、Ki-67 index>27%、p53正常、補助化学療法施行例でOSとDFSが良好であった(p<0.05)。stage、grade、ploidyを補正した多変量解析でもKi-67はOSとDFSの両方に関連していた。この多変量解析では、補助化学療法はOSに関してのみ有意であり、bcl-2とTUNELはいずれも有意ではなかった。本研究により、stageとgradeを補正すると、Ki-67はOSとDFSに関する予後予測因子として他のパラメーターよりも強い関連性のあることが明らかになった。これらの機序や、予後因子としての有意性を明らかにするために、今後前向き臨床試験が必要である。
重要性を増す癌治療の予後予測因子
腫瘍の分子マーカーの予後予測因子としての意義は広く検討されてきた。従来は、補助化学療法を受けない手術のみ(surgery alone)の患者を対象とした研究が主体であった。しかし、Dukes'Cの結腸直腸癌症例に対して5-FUベースの補助化学療法が標準的に行われる今日では、分子マーカーと予後との間に、5-FUへの感受性という因子が加わってきた。未治療の腫瘍では、増殖能の高い腫瘍ほど悪性度も高いと考えられ、Ki-67 indexが良悪性の鑑別の補助手段として使用される腫瘍もある。しかし、増殖能の大きい腫瘍は化学療法や放射線照射に対する感受性も高く、治療後の予後は不良とは限らない。結腸直腸癌の化学療法の選択肢も、5-FUやCPT-11の他にoxaliplatinも加わり多様化しつつあり、治療成績を正しく分析するためには、本論文のように一定の補助療法を行うことを前提とする事も重要であろう。
(消化器外科・大矢雅敏)