高線量術前放射線療法による下部直腸癌の肛門括約筋温存率の改善に関する検討:The Lyon R96-02によるRandomized Trial
Jean-Pierre Gerard, et al., J Clin Oncol 22(12) 2004 : 2404‐2409
これまでのrandomized trial(RT)では、術前放射線療法による局所再発の抑制と生存率の向上については報告されているが、肛門括約筋温存率の向上については検討されていない。この報告では、線量を増加することにより肛門括約筋の温存率が向上するかどうかについて報告している。
対象は、肛門縁より6cm以内の2/3周以下の、T2またはT3、NxまたはM0の直腸癌患者88例である。これらを術前体外照射(39G)単独群と、体外照射(39G)+直腸内照射(85G)群の2群に分けて括約筋温存術の頻度を比較した。手術は照射終了後5週以降に行った。
体外照射単独群(43例)と体外照射+直腸内照射群(45例)では、臨床的効果および組織化学的効果に差が認められただけでなく、肛門括約筋温存術で有意差が認められた(44% vs 76%、 p=0.004)。一方、合併症、局所再発率、2年生存率、術後の肛門機能には差を認めなかった。
以上の結果から、直腸内照射の追加は、標準的な術前放射線療法に比べて、毒性を高めたり、生存率を低下させることなく、局所効果を高め、肛門括約筋温存率を向上させると結論している。
追加照射による局所機能の温存治療に新たな可能性
進行下部直腸癌の補助療法として、欧米では放射線化学療法の有用性がRTで確認されており、非照射群に比べて照射群では10%程度の肛門括約筋温存率の向上が認められている。しかし、線量の増加による肛門括約筋温存率の向上を評価したRTはなく、本研究が初めてである。この報告では、直腸内照射の追加により30%もの肛門括約筋温存率の向上が得られている。この研究で用いられた照射方法は、欧米でも限られた数施設でしかできないとのことなので、直腸内照射の追加がただちに標準的な治療となることはない。しかし、今回のような方法で線量を増加することにより、局所効果が増大し、機能温存が可能になることを示したことは評価すべきことである。
(消化器外科・上野雅資)